監督が誰であるかを調べずに観て、後からそれがF.F. コッポラであると知って驚いた。あの監督がこんな凡庸な作品を撮っていたのかと。基本的には、本作は、所謂、「法廷もの」と分類される作品であろう。新米の弁護士(M.デイモンが初めて演じた主人公)が、法廷での駆け引きを知らずに飛び込んで、百戦錬磨の相手方の老練な弁護士(J.ヴォイト)に何回も「ボディー・ブロー」を喰らわせられながらも、最後は、どっこい裁判に勝利するという、如何にも「アメリカ的」ストーリー展開の法廷ものである。
このメイン・ストーリーに、M.デイモンがDVで追いつめられている人妻を助けるという、少々「派手な」サイド・ストーリーが絡むところに少々違和感を感じながら、筆者は、本作を最後まで観たのであるが、その映画の最後の「どんでん返し」の皮肉に、後から監督はF.F.コッポラであり、しかも彼が脚本を書いていることを知り、F.F.コッポラであればこそ、この凡庸なストーリーの最後に、ある種の人生の叡智を感じさせるテイストを表現できたのであると、映画鑑賞後に改めて、逆に「感心」したのであった。
本作の原作は、アメリカン人ベストセラー作家John Grishamジョン・グリシャムの同名の作品である。Rainmakerとは、シャーマニズムの世界で、乾燥期に雨が降らずに困っているいる時に、雨を降らせる術を心得ている人物を「レインメーカー」と呼んでいるそうで、英語世界では、更にその意味が派生して、大金を雨のようにどこからともなく降らせてくれる魔術師的人物、例えば、多額の寄付金をよく集められる人物や、本作との関係で言えば、裁判に勝って高額の賠償金を勝ち取れる有能な弁護士のことをそのように呼ぶと言う。という訳で、この派生的な意味を知っていないと、本作での最後の皮肉な展開がしっかりと「オチ」として落ちない。この点、筆者自身にも良い案が浮かばないのではあるが、邦題として何か別の題の付けようがあったのではないか。
大体J.グリシャム作品は、「法廷もの」と呼ぶには、その法廷外でのストーリー展開が大きすぎて、その分、法廷内での法理論争のロジックが弱いように思われる。J.グリシャム作品の映画化第一作『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年作)は、法廷よりもマフィアと絡む法律事務所がテーマである。同じく1993年作で、若い法学生の主人公を演じた女優J.ロバーツの出世作となる『ペリカン文書』も法廷内論争というよりは政治サスペンスである。因みに、J.ロバーツ主演の法廷ものとしては、『エリン・ブロコヴィッチ』(St.ソダーバーグ監督、2000年作)があり、環境問題訴訟で史上最高額の和解金を勝ち取った、彼女こそ「レインメーカー」となる作品がある。
1990年代は、J.グリシャム作品の映画化が立て続けに行なわれる時期と言え、1994年には、夫に裏切られた中年女性弁護士(S.サランドン)が少年の依頼人を弁護するという作品『依頼人』が発表される。その二年後の96年には、映画化されたJ.グリシャム作品の中では最も早い1989年発表作品の映画化作品『評決のとき』と、『チェンバー/処刑室』とがあり、本作の『レインメーカー』は、J.グリシャム原作が映画化された六本目の作品となる。
本人の経歴で初めての主役を演じたM.デイモンが、大学出たての若い弁護士役を初々しく演じるのと対照的に、自らの弁護士としての経験を生かして、裁判に重要な情報を漁りだしてくる中年弁護士(Danny DeVetoの役)の存在が、筆者には「いぶし銀」のように光って、本作に深みを与えている。
2024年6月18日火曜日
2024年6月4日火曜日
レッド・オクトーバーを追え!(USA、1990年作)監督:ジョン・マクティアナン
「潜水艦映画」というジャンルは、潜水艦という閉鎖された空間でストーリーが展開するところにその特異性があり、艦が沈めば、艦内の乗組員は、まずは死からは逃れられないという、潜在的ではあるが、恒常的な不安に付きまとわれていることにも、更なる特異性があるジャンルである。
この緊張感の上に更にストーリー上でそのサスペンスを高めることができるのが「潜水艦映画」の特長である。その可能性としては、A.艦内での乗組員同士の人間的葛藤を描く、B.敵の潜水艦との、或いは、潜水艦の「天敵」たる敵の駆逐艦との戦闘を描くもの、などがあり得る。
上述の、潜水艦内の閉鎖された空間での乗組員の生活、そして、その緊張・不安を描いた傑作は、ドイツ人ヴォルフガング・ペーターゼン監督の、1981年作の西ドイツ映画『Uボート』であろう。(「U」は、「ユー」ではなく、ドイツ語式に「ウー」と発音したい。)
一方、上述のB類型に当たる傑作がある。即ち、ドイツのUボートと、USAの駆逐艦の、南大西洋における「頭脳戦」を描いた作品『眼下の敵』(1957年作)である。監督は、アメリカ人ディック・パウエルで、USA駆逐艦の艦長をロバート・ミッチャムが、Uボート艦長をドイツ人クルト・ユルゲンス(Curd Jürgens)が演じて、両艦長の知力を尽くした戦いが、終盤には両者の「敬意」に変わっていくヒューマニズムが描かれて、この作品は、単なる戦争映画に終わっていないところがいい。
上述のA類型に当たる傑作が、イギリス人監督トニー・スコット(あの有名な監督リドリー・スコットの兄弟)が1995年に撮った『クリムゾン・タイド』(脚本のリライトは、Q.タランティーノ)である。大量破壊兵器を搭載するUSAの原子力潜水艦アラバマ内で、ソ連崩壊後のロシアで軍事反乱が起き、今にも第三次世界大戦が勃発するやも知れないという政治状況を背景に、白人の、下から実力で積み上げた艦長(G.ハックマン)と、黒人でエリート大学出身の副長(D.ワッシングトン)との人種的対立を含めた、個人的な職権争いは、それが第三次世界大戦を引き起こすかもしれない可能性も含めており、誠にスリリングな、二転三転のストーリー展開を遂げる。
以上の作品と比較すると、本作は、同じ潜水艦映画でありながら、ストーリー展開が凡庸であり、しかも、ソ連の最新鋭原潜の将校達の多くがUSAに政治的亡命を既に誓い合っているという、極めて信じがたい状況を前提としており、そのストーリー展開が始めから「眉唾物」である「ハンディキャップ」があるのが、痛い。さすがに、名優ショーン・コネリーの演技力で、何とか説得力が保たれているが、ロシア側の潜水艦同士の魚雷戦は、CGを使った特撮であっても、結果が見えているので、迫力が半減している。それは、本邦の、1996年作のTVアニメ映画作品『沈黙の艦隊』のサスペンスよりも劣っているかもしれない。
この緊張感の上に更にストーリー上でそのサスペンスを高めることができるのが「潜水艦映画」の特長である。その可能性としては、A.艦内での乗組員同士の人間的葛藤を描く、B.敵の潜水艦との、或いは、潜水艦の「天敵」たる敵の駆逐艦との戦闘を描くもの、などがあり得る。
上述の、潜水艦内の閉鎖された空間での乗組員の生活、そして、その緊張・不安を描いた傑作は、ドイツ人ヴォルフガング・ペーターゼン監督の、1981年作の西ドイツ映画『Uボート』であろう。(「U」は、「ユー」ではなく、ドイツ語式に「ウー」と発音したい。)
一方、上述のB類型に当たる傑作がある。即ち、ドイツのUボートと、USAの駆逐艦の、南大西洋における「頭脳戦」を描いた作品『眼下の敵』(1957年作)である。監督は、アメリカ人ディック・パウエルで、USA駆逐艦の艦長をロバート・ミッチャムが、Uボート艦長をドイツ人クルト・ユルゲンス(Curd Jürgens)が演じて、両艦長の知力を尽くした戦いが、終盤には両者の「敬意」に変わっていくヒューマニズムが描かれて、この作品は、単なる戦争映画に終わっていないところがいい。
上述のA類型に当たる傑作が、イギリス人監督トニー・スコット(あの有名な監督リドリー・スコットの兄弟)が1995年に撮った『クリムゾン・タイド』(脚本のリライトは、Q.タランティーノ)である。大量破壊兵器を搭載するUSAの原子力潜水艦アラバマ内で、ソ連崩壊後のロシアで軍事反乱が起き、今にも第三次世界大戦が勃発するやも知れないという政治状況を背景に、白人の、下から実力で積み上げた艦長(G.ハックマン)と、黒人でエリート大学出身の副長(D.ワッシングトン)との人種的対立を含めた、個人的な職権争いは、それが第三次世界大戦を引き起こすかもしれない可能性も含めており、誠にスリリングな、二転三転のストーリー展開を遂げる。
以上の作品と比較すると、本作は、同じ潜水艦映画でありながら、ストーリー展開が凡庸であり、しかも、ソ連の最新鋭原潜の将校達の多くがUSAに政治的亡命を既に誓い合っているという、極めて信じがたい状況を前提としており、そのストーリー展開が始めから「眉唾物」である「ハンディキャップ」があるのが、痛い。さすがに、名優ショーン・コネリーの演技力で、何とか説得力が保たれているが、ロシア側の潜水艦同士の魚雷戦は、CGを使った特撮であっても、結果が見えているので、迫力が半減している。それは、本邦の、1996年作のTVアニメ映画作品『沈黙の艦隊』のサスペンスよりも劣っているかもしれない。
さて、本作の主人公が操る潜水艦「赤い十月」号に随行する政治将校は、艦長S.コネリーに殺害されるが、この政治将校の名前が、イワン・プーティンである。果たして、本作の脚本家達は、この歴史的風刺を予感していたのであろうか。
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