本作の原作の著者Matt Bondurantは、本作の主人公ジャックら三人兄弟と同様の苗字Bondurantであり、実は、孫のマットは、祖父のジャックを本作の語り手として、祖父やその兄弟の「行状」と運命、そして、33年には終わる禁酒法時代後の自らの家族の繁栄を描いた。原作名が『The Wettest County in the World』(2008年作)とあるのは、上述の「世界の密造酒首都」と似ているのであるが、この「Wettest」とは、禁酒法に賛成する派を「dry」と呼んだに対して、アルコール容認派を「wet」としたことによる。
Bondurantボンデュラン兄弟の長男ハワードは、第一次世界大戦に従軍し、自分が所属する部隊全員がほぼ戦死する中、一人だけ生き残った元兵隊であり、その心の傷を癒すべく、アルコールを手から離せなくなっていた。また、次男のフォーレストは、兄弟の両親が亡くなったスペイン風邪に罹患し、重体であったのにも関わらず、それを生き延びた男であった。故に、彼には「不死身」であるという伝説が地元ではまかり通っていたのである。実際、彼は、剃刀で頸を切られても、銃弾を身体に数発受けても、不思議なことにそれを生き延びる。
三男のジャックも不死身なのかは映画では語られないが、何れにしても、この三兄弟は、郡内にある街道沿いのガソリンスタンドとドライブインを表では経営し、裏では、密造酒を作っては、それを町で売りさばいて、金の儲けていた。正に、アルコールが禁止されているが故に、彼等は密造酒で金が儲けられていたのである。そんな中、頭の切れるジャックは、偶然にコネを付けることが出来た町のギャングFloyd Banner(名優Gary Oldman)の助けもあり、密造酒製造所を改良し、馬力のある車を手に入れて、本格的に密造酒の製造と販売に乗り出したのである。
これと前後する時期に、新しく郡の検察官(Attorney)と共にやってきたSpecial Deputy(連邦保安官Marshalを特別に補佐する人物;イギリス人俳優Guy Pearceがその厭らしさを好演)が、密造酒から上がる利益からの分け前を懐に入れようと、郡内の密造酒製造者達に圧力を掛ける。その圧力に屈して密造酒製造の同業者が次々と分け前金を支払うことに妥協していく中、Bondurant兄弟はこれに抵抗することから、彼等と特別補佐官Rakesとの対立は銃撃戦へと発展することになる。さて、その結末は、如何なることになるか?
さて、特別補佐官Rakesレイクスは、禁酒法時代にあのアル・カポーンがその縄張りとしていたシカゴから来ており、恐らくは修羅場をくぐってきた「強者」であった。そして、ボンデュラン兄弟が経営するドライブインの給仕に新たに雇われたマギーも、あのシカゴから逃げてきた元踊り子であった。という訳で、本作の一つのテーマとも言えるのが、「都会」対「田舎」の構図であり、本来、禁酒法がなければ、違法ではない「密造」酒を蒸溜する村の者達は、普通に生活していたはずなのである。そもそも国家(連邦)がアルコール類に税を掛けること自体が、彼等にとっては「国の越権行為」に映っていたのであり、村人と深く関わる地元のシェリフも、結局は、村人側に立つことになり、本作は、村落共同体がある意味で機能する「村の団結」へのオマージュであるとも言えるのである。
そもそも禁酒法の成立は、共和党や民主党の党派の別を越えた、殆んど宗教的な信条に基づくものであった。禁酒法成立への動きは、既に19世紀の半ば頃から燻っており、とりわけ、禁欲的生活を唱導するプロテスタント派、とりわけ、メソジスト派、再洗礼派、長老派、クェーカー派、北欧のルター派などがその担い手となり、USAの地方政治において主要なテーマとしていたのである。これに対して、国家・政府が道徳・倫理を規定することに反対する立場として、反禁酒法派(ドライに対するウェット)がおり、この立場に立ったのが、主に、米国聖公会派、ドイツ系のルター派、そして、ローマ・カトリック教派であった。
このような状況下で、1916年の大統領選挙で民主党の現職ウッドロウ・ウィルソンが再選され、17年一月に米国議会が招集されると、大統領選挙では争点となっていなかった禁酒法問題が突然脚光を浴びることとなる。ウィキペディアによると、この議会では、「ドライ」派が、民主党では140対64、共和党で138対62と、それぞれ「ウェット」派よりも多く、また、同年四月にUSAが対独宣戦布告をしたことから、「ウェット」派の主要勢力の一つであったドイツ系アメリカ人の発言力が失われたこともこれに影響した。しかも、当時のUSAにおける大手ビール製造会社の多くがドイツ系であったこともあり、「ビール=ドイツ=悪」という単純明快なイメージがまかり通ったこともあって、「ドライ」派を勢いづかせることに繋がったと言われている。こうして、1920年に禁酒法は議会で採択される。
このような禁酒法成立の宗教的な背景を鑑みると、本作の23分代から数分に亘り、ある教会内のでミサの様子が描かれたことは、興味深い。
この教会の外には車が止まっており、信者は、馬車にしか乗らないアーミッシュの信仰者よりはラディカルではないようである。教会内には祭壇のようなものはなく、建物の中央には空間を設けて、そこに牧師に当たる人物が立ち、集会者は、この中央の空間に向けて、四方に何列か椅子を並べて座っている。建物の東西方向は分からないが、建物の壁の二面に、女性が座る席が、他の二面には男性が座りっており、座る場所に男女の別が、ユダヤ教のシナゴーグと同様にあるようである。年齢の別は関係がないようであるが、女性に関しては、全員が被り物をしており、女の子が白い被り物をしているところから、未婚の女性は白の、既婚の女性は黒の被り物をするようである。主人公ジャックの意中の女性バーサ(Bertha)も、髪を後ろに撫でて纏め、白色の薄いレースのような被り物を被っている。集会者は、膝に上に置かれた聖書のような本を片手で広げ、もう一本の片腕を、右手か左手かは決まっておらず、肘を軸にして、歌に合わせてゆっくり上下させている。
ミサの儀式の一つに「洗足式(せんぞくしき)」があり、この儀式は、ヨハネによる福音書13:1-17に書かれてある、イエスが弟子の足を洗ったことによる。まず、一つの壁面に座っている四人の男性が立ち上がり、別の面に座っている四人の女性の前に向かう。彼女達の前には既に洗面器のような金盥があり、四人の男性は、跪いて、椅子に座ったままの四人の女性の足を洗う。足を洗われた四人の女性は、今度は、自分達の正面に座っている男性達の足を洗うのである。ある事情で、このミサの場面は別の場面へと急展開するのであるが、この教会の教派は、調べたところによると、Brethrenブレザレン会派という。この会派は、元々はドイツから発祥した、プロテスタント系再洗礼派の会派である。
このような状況下で、1916年の大統領選挙で民主党の現職ウッドロウ・ウィルソンが再選され、17年一月に米国議会が招集されると、大統領選挙では争点となっていなかった禁酒法問題が突然脚光を浴びることとなる。ウィキペディアによると、この議会では、「ドライ」派が、民主党では140対64、共和党で138対62と、それぞれ「ウェット」派よりも多く、また、同年四月にUSAが対独宣戦布告をしたことから、「ウェット」派の主要勢力の一つであったドイツ系アメリカ人の発言力が失われたこともこれに影響した。しかも、当時のUSAにおける大手ビール製造会社の多くがドイツ系であったこともあり、「ビール=ドイツ=悪」という単純明快なイメージがまかり通ったこともあって、「ドライ」派を勢いづかせることに繋がったと言われている。こうして、1920年に禁酒法は議会で採択される。
このような禁酒法成立の宗教的な背景を鑑みると、本作の23分代から数分に亘り、ある教会内のでミサの様子が描かれたことは、興味深い。
この教会の外には車が止まっており、信者は、馬車にしか乗らないアーミッシュの信仰者よりはラディカルではないようである。教会内には祭壇のようなものはなく、建物の中央には空間を設けて、そこに牧師に当たる人物が立ち、集会者は、この中央の空間に向けて、四方に何列か椅子を並べて座っている。建物の東西方向は分からないが、建物の壁の二面に、女性が座る席が、他の二面には男性が座りっており、座る場所に男女の別が、ユダヤ教のシナゴーグと同様にあるようである。年齢の別は関係がないようであるが、女性に関しては、全員が被り物をしており、女の子が白い被り物をしているところから、未婚の女性は白の、既婚の女性は黒の被り物をするようである。主人公ジャックの意中の女性バーサ(Bertha)も、髪を後ろに撫でて纏め、白色の薄いレースのような被り物を被っている。集会者は、膝に上に置かれた聖書のような本を片手で広げ、もう一本の片腕を、右手か左手かは決まっておらず、肘を軸にして、歌に合わせてゆっくり上下させている。
ミサの儀式の一つに「洗足式(せんぞくしき)」があり、この儀式は、ヨハネによる福音書13:1-17に書かれてある、イエスが弟子の足を洗ったことによる。まず、一つの壁面に座っている四人の男性が立ち上がり、別の面に座っている四人の女性の前に向かう。彼女達の前には既に洗面器のような金盥があり、四人の男性は、跪いて、椅子に座ったままの四人の女性の足を洗う。足を洗われた四人の女性は、今度は、自分達の正面に座っている男性達の足を洗うのである。ある事情で、このミサの場面は別の場面へと急展開するのであるが、この教会の教派は、調べたところによると、Brethrenブレザレン会派という。この会派は、元々はドイツから発祥した、プロテスタント系再洗礼派の会派である。