この緊張感の上に更にストーリー上でそのサスペンスを高めることができるのが「潜水艦映画」の特長である。その可能性としては、A.艦内での乗組員同士の人間的葛藤を描く、B.敵の潜水艦との、或いは、潜水艦の「天敵」たる敵の駆逐艦との戦闘を描くもの、などがあり得る。
上述の、潜水艦内の閉鎖された空間での乗組員の生活、そして、その緊張・不安を描いた傑作は、ドイツ人ヴォルフガング・ペーターゼン監督の、1981年作の西ドイツ映画『Uボート』であろう。(「U」は、「ユー」ではなく、ドイツ語式に「ウー」と発音したい。)
一方、上述のB類型に当たる傑作がある。即ち、ドイツのUボートと、USAの駆逐艦の、南大西洋における「頭脳戦」を描いた作品『眼下の敵』(1957年作)である。監督は、アメリカ人ディック・パウエルで、USA駆逐艦の艦長をロバート・ミッチャムが、Uボート艦長をドイツ人クルト・ユルゲンス(Curd Jürgens)が演じて、両艦長の知力を尽くした戦いが、終盤には両者の「敬意」に変わっていくヒューマニズムが描かれて、この作品は、単なる戦争映画に終わっていないところがいい。
上述のA類型に当たる傑作が、イギリス人監督トニー・スコット(あの有名な監督リドリー・スコットの兄弟)が1995年に撮った『クリムゾン・タイド』(脚本のリライトは、Q.タランティーノ)である。大量破壊兵器を搭載するUSAの原子力潜水艦アラバマ内で、ソ連崩壊後のロシアで軍事反乱が起き、今にも第三次世界大戦が勃発するやも知れないという政治状況を背景に、白人の、下から実力で積み上げた艦長(G.ハックマン)と、黒人でエリート大学出身の副長(D.ワッシングトン)との人種的対立を含めた、個人的な職権争いは、それが第三次世界大戦を引き起こすかもしれない可能性も含めており、誠にスリリングな、二転三転のストーリー展開を遂げる。
以上の作品と比較すると、本作は、同じ潜水艦映画でありながら、ストーリー展開が凡庸であり、しかも、ソ連の最新鋭原潜の将校達の多くがUSAに政治的亡命を既に誓い合っているという、極めて信じがたい状況を前提としており、そのストーリー展開が始めから「眉唾物」である「ハンディキャップ」があるのが、痛い。さすがに、名優ショーン・コネリーの演技力で、何とか説得力が保たれているが、ロシア側の潜水艦同士の魚雷戦は、CGを使った特撮であっても、結果が見えているので、迫力が半減している。それは、本邦の、1996年作のTVアニメ映画作品『沈黙の艦隊』のサスペンスよりも劣っているかもしれない。
さて、本作の主人公が操る潜水艦「赤い十月」号に随行する政治将校は、艦長S.コネリーに殺害されるが、この政治将校の名前が、イワン・プーティンである。果たして、本作の脚本家達は、この歴史的風刺を予感していたのであろうか。
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