本作は、John Wickシリーズの第三作目であるが、第二作目が第一作目よりよかった分、同じ脚本家Derek Kolstadが他の脚本家と共同で書いている割には、本作は、その質を落としているように見える。第一作目以来の「殺戮の乱舞」は、三作目になると、やはりマンネリ化して、詰まらなくなる。それがあったのか、今回のモロッコでの銃撃戦シーンには、JohnにSofia(Halle Berryハル・ベリー)を加えて、更に三匹の格闘犬を入れた「乱舞」になっている。さて、見応えがあるか。筆者にはなかった。
また、ジョン・ウィック・ワールドも、今回、「会長会」乃至「上座会」の上に更に「最長老」が存在すること、また、「会長会」は、「裁定人」なる者を送り、これによって掟を守らなかった者に処罰を下すことが出来ることなどが、今回の見るべき展開であるが、ストーリー展開のインパクトとしては弱いように思われる。
さて、副題にある「Parabellumパラベルム」とは、ラテン語の警句「Si vis pacem, para bellum 汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ!」の最後の二文字を採って、それをつなぎ合わせたものである。誰の言葉からの引用なのかはっきりしないと言うが、ローマ帝国時代末期の紀元後四世紀に書かれた軍事書によるのではないかと言われている。何れにしても、「平和」であるためには、それなりの戦備が整っていなければならないと解釈される警句であると言う。正に、ストーリーの内容に当てはまる警句であり、実際、映画内でも「コンティネンタル・ホテル」ニューヨーク支店のオーナーが、裁定人が送った部隊とホテル内で戦闘を繰り広げる前に、この警句が引用されるのである。
因みに、ドイツの兵器産業DWM社(DWMデー・ヴェー・エム社:ドイツ武器弾薬製造社)が使った社訓が上記の格言であり、日本で「ルガー拳銃」と呼ばれている、DWM社製拳銃が、「パラベラム拳銃」と呼ばれている。また、同社が開発した拳銃用弾薬も「パラベラム弾」と言われている。
参考:DWMデー・ヴェー・エム社とは、Deutsche Waffen- Munitionsfabrik AGの略で、ドイツ武器・弾薬製造工場・株式会社の略である。1871年にドイツ第二帝国が成立し、ドイツの産業革命が第二段階を迎えて本格化するのが、1870年代で、この時期に多くの企業が起業された。その中には、もちろん、武器産業、火薬製造企業、金属薬莢製造企業も存在し、1880年代末までに幾つかの企業の合併・併合が繰り返され、この過程を通じて、1896年にDWM株式会社がベルリンを本社として設立された。
実は、DWM社の設立に際しては、ドイツ西南部、ネッカー川沿いにあるMauser社(本来「マウザー」と発音するが、日本では「モーゼル銃」の名で知られている会社)も参画しており、1898年にドイツ帝国陸軍に正式採用された小銃Gew98は、基本設計はMauser社による。Gewehrゲヴェアは、小銃の意味で、「98」は正式採用された1898年から来ている。五発を一度に装填できる装填クリップが使われたのが、この小銃の特徴の一つで、第一次世界大戦中は、ドイツ歩兵は、この小銃を使って戦った。
一方、拳銃では、このDWM社の武器開発技師Georg Lugerゲオルク・ルーガーが改良を重ねて製作した自動装填式拳銃P08が有名である。日本では「ルガー拳銃」として知られているこのPistole(ピストーレ:拳銃)は、1908年にドイツ帝国軍に正式採用され、手作りで製造されたこの拳銃が野戦では故障しやすいことから、将校用の拳銃として使われた。この拳銃は、第二次世界大戦が始まる直前の1938年まで使用され、この年にP.38が新式の拳銃として、ナチス国防軍に正式採用される。故に、この拳銃が「P.38」と呼ばれる訳であるが、この拳銃の開発は、Walther有限会社によるものであった。尚、Waltherは、ドイツ語では、「ヴァルター」というので、この拳銃は、正しくは、「ヴァルター・ペー・38」と発音したいところである。この拳銃の銃弾も、「9㎜パラベラム弾」であった。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
若草物語(日本、1964年作)監督:森永 健次郎
映画の序盤、大阪の家を飛行機(これがコメディタッチ)で家出してきた、四人姉妹の内の、下の三人が、東京の一番上の姉が住んでいる晴海団地(中層の五階建て)に押しかけて来る。こうして、「団地妻」の姉が住む「文化住宅」の茶の間で四人姉妹が揃い踏みするのであるが、長女(芦川いづみ)は、何...
-
主人公・平山の趣味が、1970年代のポップスをカセットテープで聴いたり、アナログ・カメラで白黒写真を撮ったりすることなどであること、また、平山が見る夢が、W.ヴェンダースの妻ドナータ・ヴェンダースの、モノクロのDream Installationsとして、作品に挿入されているこ...
-
中編アニメ『言の葉の庭』(2013年作)で大人のアニメへの展開を予想させた新海アニメ・ワールドは、次の、長編アニメ『君の名は。』(2016年作)以降、『天気の子』(2019年作)を経て、本作(2022年作)へと三年毎に作品が発表され、『言の葉の庭』とは別の歩を辿る。『君の名は。...
-
本作、画面の構図と色彩感覚がいい。画面の構図は、監督・是枝裕和の才能であろう。色彩感覚は、むしろ撮影監督・中堀正夫の持ち味であろうか。 原作は、神戸出身の作家・宮本輝の1978年発表の同名小説である。筆者は原作を読んでいないので、本作のストーリー(脚本:荻田芳久)が原作のそれ...
0 件のコメント:
コメントを投稿