Pride runs deep Silent Service
沈黙の艦隊、潜水艦乗りの誇りを以って北極海の海底深く潜行する
本作は、潜水艦ものとしては、『沈黙の艦隊 北極海大海戦』に匹敵する作品である。但し、誤解がないように!『沈黙の艦隊 北極海大海戦』と言っているのは、実写版ではなく、傑作のアニメ版である。
上述の英語文は、主人公G.バトラー(制作者の一人も兼ねる)が映画の冒頭で、新しく自分が艦長となるべき、「Hunter Killer」たるべきUSS最新鋭潜水艦に乗り組む前に、自分のポケットから取り出したコインに書かれてある言葉である。狩りに出るハンターをも殺ってしまえる程、性能がいい、この最新鋭潜水艦は、USSヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦の一隻である。『沈黙の艦隊 北極海大海戦』で登場する「シーウルフ」級が建造に経費が嵩み過ぎて殆んど建造されなかったことに鑑みて、その性能は、本作の冒頭で登場し、撃沈されるロサンゼルス級原子力潜水艦より性能はあるが、シーウルフ級よりは廉価である型である。故に、60隻以上の建造が見込まれている、建造が2000年に、就役がその四年後から始まった、2025年現在でも現役のサブマリーンである。
しかし、本作はストーリー展開が早過ぎ、また、潜水艦ものに徹していない作品なので、潜水艦ものに付き物の、あの狭い艦内での閉塞感が殆んど感じられない点で、マイナスである。この潜水艦ものに徹底できない代わり、Navy SEALsネイヴィー・シールズの地上戦のサブ・ストーリーがあり、このサブ・ストーリーは、確かに「損失」があるのではあるが、それでも展開が上手く行き過ぎで、「眉唾物」である。まず、ロシア連邦のドゥ―ロフ国防相がクー・デタを実行し、米露の戦争を勃発させようとするだけの内面的動機が全く本作では説明されていないことに内容の深みのなさがあり、不満が残る。その意味では、本作は、残念ながら、何も考えなくてもよいポップコーン・戦闘アクション映画である。
さて、本作には、ストーリーとしては、もう一つのレベルがあり、それが、国防省(現:戦争省)でのやり取りである。このレベルでのストーリー展開で重要な役割を演じるのが、統合参謀本部議長である。この役を、イギリス人名俳優サー・ゲアリー・ゴールドマンが演じている。善玉たるUSAの側において、好戦的な軍事上の権力者として、緊張を作り出して、ストーリー展開に、言わば、「塩味を効かせる」役である。尚、G.ゴールドマンは、2018年の第90回USAアカデミー賞で、別の作品でのウィンストン・チャーチル役で主演男優賞を獲得しており、本作は、彼がアカデミー賞を受賞した直後の作品となる。
ところで、統合参謀本部議長とは、USAにおける政治・軍事機構の中でどんな位置を占める役職なのであろうか。
これには、まずは、the Joint Chiefs of Staff 統合参謀本部がどんなものであるか知らねばならない。1947年以来存在する、この本部は、米軍の五種類の軍種、つまり、陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、そして、海兵隊の長、更に、州兵を管轄する州兵総局のトップ・州兵総局長がメンバーであり、これに、専任の議長及び副議長が加わって、構成される。つまり、八名で構成される組織である。
この合議体の長がChairman of the Joint Chiefs of Staff統合参謀本部議長となり、議長は大統領が、各軍の最高司令官級の軍人の中から指名し、上院の助言と承認を以って、任期四年で任命される。階級は、大将となり、一般には、「制服組のトップ」と言われる存在である。
統合参謀本部議長が「制服組のトップ」とは言え、シヴィリアン・コントロールのUSAでは、最高指揮権は大統領にあり、統合参謀本部議長は軍事面における助言者であるに過ぎない。故に、各軍への命令は、大統領から戦争省長官を経て、各統合軍の司令官を通じて直接発動されるという経路を辿る。故に、本作で、G.オールドマン演じるところの統合参謀本部議長が直接に命令を下して、米露軍事衝突になり兼ねない軍事行動を発令できないはずであるが、これは、ストーリー展開を盛り上げるための「芸術上の自由」というところであろうか。
本作には2012年に発表された『Firing Point』という原作があり、作者は、Don Keithドン・キースとGeorge Wallaceジョージ・ウォレスである。G.ウォレスは、USA海軍潜水艦の元艦長であり、やはり、米露の潜水艦艦長同志の「潜水艦乗り魂」を称揚される本作のラストシーンは、対立の中においても人間性を失わないヒューマニズムへの賛歌を感じさせる終わりである。
そうとは思いつつも、ウクライナ侵攻後のロシア、トランプ第二次政権の権威主義的統治を知った2026年以降の人間には、本作は、米ソ協調の古き良き時代の遺物にしか見えなかったのは、筆者のみではないのであろう。
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