本作の邦題『ジャッキー・コーガン』を見る限り、うん、これは、あの『ジャッキー・ブラウン』(1997年作)の「兄弟編」かと思う。しかし、内容的に見ると、『パルプ・フィクション』(1994年作)をブラッド・ピット版にしたものかとも思う。(B.ピットは、本作の製作者の一人でもある。)
『ジャッキー・ブラウン』も『パルプ・フィクション』も監督はQ.タランティーノで、オーストラリア人監督Andrew Dominikは、タランティーノ「信者」に思える。本作の原作は、George V. Higginsの小説『Cogan' Trade』(1974年作)で、本作のストーリー展開はほぼ原作に則っているのであるが、脚本も書いているA.Dominikは、時代背景を2008年に持ってきているところが本作のストーリー上の「ミソ」なのである。
USAの2008年というと、民主党のB.オバマと共和党のJ.マッケインとの間の大統領選挙の選挙戦の最中である。映画中に出てくるテレビ中継で演説するB.オバマの崇高な論理と、B.ピット演じるJ.コーガンが「処理する」下世話の「仕事」との間に存在する、隔絶的な距離感こそが本作の眼目であろう。J.コーガンに言わせれば、アメリカとは、その内容が何であれ、「ビジネス」の国なのであり、民主主義の理想などはどうでもいいのである。
となれば、この批評を書いている2024年には、C.ハリスとD.トランプとの間の大統領選挙戦が行なわる予定であるが、B.オバマからC.ハリスにつながる民主党の連続性に対して、J.マッケインからD.トランプに変わる、共和党の政治的方針の変化には目を見張るものがある。
話しが若干逸れたが、本作の英語原題は『Killing them softly』という。この原題から連想するのは、『Killing me softly with his song』というポップ・ソングである。こちらの歌の邦題は、『やさしく歌って』となっているが、この曲は、Roberta Flackという黒人女性歌手が1973年に歌って世界的にもヒットした作品であり、これにより、彼女は、グラミー賞の最優秀レコード賞、最優秀楽曲、最優秀女性ヴォーカルで受賞したのである。当時はこれ程、知名度の高かった曲である。
この曲の原題『Killing me softly with his song』が邦題でなぜに『やさしく歌って』となったかは筆者の知るところではないが、「やさしく殺して」としては、憚られるものを日本の音楽会社は感じたのであろうか。しかも、Killingは現在進行形であるから、命令形とは異なる形である。故に、意味的にも異なってくる。何れにしても、「殺す」と「やさしく」が殆んど逆説的に結び付いているところにこの曲の歌詞の秀逸さがあるのである。一方、本作の原題『Killing them softly』では、killは正にそのものずばりであり、そこには詩的誇張は全くないのである。
尚、R.Flackが歌って有名になった曲は、実は、Lori Liebermanという女性のユダヤ系シンガーソングライターが自分の音楽体験を基にして既に1972年に発表していたものである。ギターの弾き語りで静かに歌うL.Liebermanのプレゼンテーションは、控え目過ぎたということであろうか、ヒットにはつながらなかった。
この「控え目さ」と呼応するが如く、本作のストーリーの内容は、些末で、矮小である。つまり、「パルプ・フィクション」なのであり、その意味で、本作の「山場」は、ジャッキー・コーガンが、自分が顔を知られていることから、わざわざニューヨークから呼んだ、知り合いの殺し屋ミッキーとのやり取りであろう。この、アル中の、売春婦と寝ることしか頭にない殺し屋ミッキーを、James Gandolfiniが秀逸に演じている。同じく秀逸なのは、本作における撮影で、スローモーション撮影と光を上手く使ったキャメラは、印象的である。調べると、撮影監督のオーストラリア人Greig Fraserは、『Dune』(2021年作)でアカデミー賞撮影賞を受賞している。さもありなんというところであろうか。
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