明治二十九年法律第八十九号とは、現代日本でも通用している日本国の民法のことである。その第772条第一項は言う:「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」
また、同条第二項は、女性の妊娠期間を想定して、「婚姻の成立の日から200日を経過した後」、又は、「婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子」は、「婚姻中に懐胎したものと推定する」と、規定されている。この「嫡出推定」の規定に従って、離婚から300日以内に生まれた子は、上述の二段階の推定により、原則として前夫の子として扱われることになると言う。
この上述の規定に関して、200と300の数字が妥当なものであるかの疑問が起こるのと同時に、婚姻直前にその女性が他の男性と交渉があったり、婚姻中に妻が「浮気」を働いていたケースは、どうなるのであろうかという疑念が起こるのではあるが、何れにしても、この期間中に生まれた子に関しては、夫、或いは前夫は、遺伝的関係とは関係なく、戸籍上の「父」となることになる。
現代では、DNA鑑定により、父子関係は、科学的に白黒が付けられる時代ではあるが、DV前夫との関わりを避けるために、自分が生んだ子供が前夫の子となることを嫌って、離婚後に出生した子の戸籍上の手続きがなされないケースもあり得る訳で、このような社会問題を人は「離婚300日問題」と呼ぶ。本作の主人公市子は、正に、このような「星」の下に生まれた女性であり、不幸な運命は、更に、不幸を引き寄せる形で本作の「重く哀しい」ストーリーは展開する。
本作の原作は、監督が演劇用に書いた台本『川辺市子のために』であると言うが、筆者は、この演劇を観ていないので、本作の脚本との比較が出来ないが、友人から聞いた話しでは、舞台には市子一人が立ち、その市子をぐるりと囲むように観衆が座り、その観衆の後ろを今度は別の登場人物達がぐるりと囲んで、劇が進行すると言う。
これらの別の登場人物達の「証言」により、市子の存在の在り様が明らかにされるのであろうが、証言する他の登場人物と、その証言に反応する市子を演劇的にどのように構築するのか、極めて興味深く、筆者も一度は演劇を観てみたいものである。この演劇の演出の斬新性から言うと、監督が同一人物でもあり、本作の語りがオーソドックス過ぎるのが、残念に思われる。
2024年10月16日水曜日
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