2024年11月6日水曜日

俺たちは天使じゃない(USA、1955年作)監督:マイケル・カーティス

 USAの1930年代以降、トーキー映画がサイレント映画を次第に駆逐する中で、会話に重きを置くことが出来ることから展開したトーキー映画の一ジャンルがある。いわゆる、「スクリューボール・コメディ」である。その初期の代表的作品が、C.ゲーブル、C.コルベール主演、F.キャプラ監督作品『或る夜の出来事』(1934年作)である。基本的には、恋愛喜劇(ロマンティック・コメディ)なのであるが、そこに、「スクリューボール」の変化球の意外性と、男女間の洒落た会話の、丁々発止のテンポのよさが加わったものが、スクリューボール・コメディであると言える。


 本作も喜劇は喜劇であるが、上述のスクリューボール・コメディの魅力に重点を置くものではなく、本作のストーリーの底に流れているのは、ブラック・ユーモアである。しかも、USA作品とは言え、原作は、元々フランス人作家Albert Hussonアルベール・ユソンが1952年に発表した演劇『La cuisine des anges天使達の料理』であることから、普通のアメリカ映画とは雰囲気が若干異なっている。このフランス語の演劇の台本を、あるアメリカ人作家夫婦が英語に訳し、『私の三人の天使達』の題名で本を出したところ、これが、ブロードウェイに演劇として、53年から約一年間掛かり、その成功を見て、映画会社がこの舞台作品の映画化権を取得した次第であった。という訳で、本作も基本的には舞台劇的な、場面の大きな移動が少ないシーン構成になっている。

 監督は、あの『カサブランカ』(1942年作)を撮ったMichael Curtizマイケル・カーティスであり、H.ボガートとは、本作が1937年以来の六本目で、最後の共作となるものである。しかも、H.ボガードとしては、珍しい喜劇である。

 ハードボイルドやフィルム・ノワールで鳴らしたH.ボガードが喜劇を演じるその意外性に既に「喜劇性」が出ており、本人も喜劇役者たらんとして無理な演技をしていないところに筆者は好感が持てる。

 このH.ボガードの脇を、元々は素人であったが、スカウトされて喜劇作品で顔がこの頃ようやく知れらるようになったAldo Rayと、ユダヤ系イギリス人名優Peter Ustinovの二人が固めている。尚、輸入雑貨品店を営むDucotelデュコテル一家の一人娘Isabelleイザベル役を演じたGloria Talbottグロリア・タルボットは、本作を撮って以降は、B級ホロー映画に出演するようになり、1950年代後半の「絶叫クィーン」として有名になることになる。

 ストーリーの舞台は、ブラジルの北に位置するフランス領ギアナの中心地Cayenneカイエンヌである。この地に、大西洋の沖合にある、全島が流刑地となっている「悪魔島」から逃げてきた囚人の三人組が、「三賢人」よろしく、クリスマス・イヴにやってきて、図らずも、そして毒蛇Adolpheアドルフの「助け」も借りて、その善人ぶりを発揮するという、クリスマスには持って来いの作品となっている。因みに、悪魔島は映画『パピヨン』(1973年作)のストーリーの舞台となったことで知られている島である。

 さて、本作は「Technicolorテクニカラー」で撮られた作品であり、しかも撮影方式が「VistaVision」という、1954年に初めて実用化された技術で撮られたものである。1930年代以降のテクニカラー自体が、被写体像をプリズムに通して、三色法の赤・緑・青に分解し、そのそれぞれをモノクロ・フィルムで撮影記録するという、極めて贅沢な撮り方をする技術である。その分、撮影時の情報量が多い訳で、当然、画像の質が高くなる方式である。(という訳で、デジタル・リマスタリングの際には、このテクニカラー方式で撮影された作品は、修復のやり甲斐が大いにあると言う。)

 一方、VistaVisionは、本作の製作会社パラマウント映画社が、20世紀フォックス社の「シネマスコープ」に対抗して開発した方式で、通常縦駆動のカメラを横駆動とし、しかもスタンダード・サイズであれば、4パーフォレーションを使うところを、この方式では8パーフォレーションと二倍も取るところから、その分、また画質もよくなる訳で、画面アスペクト比が1,66:1の横長の画面サイズになる方式であった。(スタンダード・サイズの画面アスペクト比の、いわゆる「アカデミー比」は、1,375:1である。)

 こうして、テクニカラーとVistaVisionの二つの豪華な方式で撮影された本作は、初期の、イーストマン・コダックやアグファと比べ物にならない程、豊かで深い色彩であり、正に、「総天然色」映画の名に恥じない画質である。この良質の画像を楽しむだけでも本作は観る価値があると言える。

 とりわけ、輸入雑貨店の娘イザベルがある時着て登場するドレスの、黄色味がより強い薄い黄緑色や、これも恐らくは楽屋の「ご愛敬」程度と見るべきものであろうが、苦み走ったH.ボガードが、普段はイザベルが付けるというエプロンを着て、クリマスマス・イヴのために、鵞鳥の丸焼きをオーヴンを使って焼いている場面の、そのエプロンのサーモン・ピンクの色彩は、是非、本作で堪能したいものである。しかも、このエプロンは、フリル付きであるのも、「ミソ」であろう。こうして、三人の「天使」がクリマスマス・イヴの晩餐のために料理を作るという、正に、原作の題名『天使達の料理』が生きてくるという訳である。

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