2024年12月11日水曜日

フラッシュ・ゴードン(イギリス/USA合作、1980年作)監督:マイク・ホッジス

 この映画の日本上映用ポスターの一つはアメリカン・コミック風にディザインされている。その中央にはフラッシュ・ゴードンが、木が枯れて地を這うようにしている背景を背にして、何か中世的な銃を構えながら、両足を広げて立っている雄姿として見える。もちろん、彼はブロンドの髪の色をしている。

 ポスターの下側には、「フラッシュ+ゴードン」の題字が赤く塗り上げられて書かれてあり、そのすぐ右上には、比較的小さ目に二人の美女、Auraオーラ姫とDaleデイル嬢が描かれている。ポスターの右上四半部分には幾人もの「タカ人間(ホークマン)」が飛んでいる姿が見られ、その反対側に当たる、ポスターの左端には次のキャッチ・コピーが読める:

 テクニカラー『フラッシュ』Go!地球の危機だ!! 数千のホークマン<鷹人間>が飛び交うスーパー・スペース・アドベンチャー!

 そうである。本作は、「スーパー・スペース・アドベンチャー」であり、インター・ギャラクティック・スペース・オペラなのである。何故に、「インター・ギャラクティック・スペース」なのかと言うと、Mongo帝国は、銀河間を支配するからである。この帝国のインペラトールが、Ming「無慈悲」帝であり、インペラトールMingは、退屈しのぎに、Mongo惑星からあちこちの銀河や惑星に対して様々な天変地異を引き起こすことが出来るのである。惑星地球に対してもMing皇帝は、天変地異を引き起こし、月を地球に向けて 衝突するように画策することになる。

 この地球の危機を探り出したのが、狂気を内に秘めた天才的科学者Dr. Hans Zarkovドクトル・ザーコフである。彼は、既に宇宙ロケットを開発しており、インペラトールMingと交渉するためにMongo惑星に飛ぼうと決意していたが、宇宙ロケットは一人では飛べずにいたのである。そこに、アメフトのスター選手Flash Gordon と、セスナ機に偶然に同乗していたDale嬢がZarkovの屋敷にセスナ機の事故のせいで辿り着いたのである。乗っていたセスナ機のパイロットが隕石に当たって死んだことから、操縦経験のないFlash Gordonが操縦桿を握って、機転を効かせて、胴体着陸せざるを得なかったのである。こうして、ドクターNoならぬZarkov、金髪のアメフト選手Flash Gordon、そして典型的アメリカ白人女性Dale嬢の三人がMongo惑星に向けて飛び立ち、三人の思いもよらないファンタスティックなスペース・アドベンチャーが始まるのである。

 金髪で「体育会」系の人物Flash Gordon を演じたのは、Sam J. Jonesで、本作で第一回ゴールデンラズベリー賞最低主演男優賞にノミネートされる「栄誉」を得る。この「善玉」に対する悪の中の「悪玉」Ming「無慈悲」帝を、スェーデン人名優Max Carl Adolf von Sydowが演じて、本作をSFファンタジー映画のカルト的存在に引き上げた。主演の脇を固めた一人が、本作撮影後の数年後に四代目の「ジェームズ・ボンド」となるイギリス人俳優Timothy Daltonであり、また、本作に「色を添える」妖婦Aura姫役を演じたのが、イタリア人女優Ornella Mutiオルネルッラ・ムーティーである。Mongo帝国の女将軍Kalaカーラを演じたのも、同じくイタリア人女優であるMariangela Melatoマリーアンジェラ・メラートーであることは、興味深い。M. Melatoは、イタリア映画記者組合がイタリア映画のために選出する伝統ある映画賞Nastro d'Argentoナストロ・ダルジェント(「銀のリボン」)賞で、1970年代から80年代にかけて五回も授賞している名女優である。

 意外にもイタリア人女優が起用されているこの点から、スタッフを調べてみると、当然の帰結のように、Dino De Laurentiisディーノ・デ・ラウレンティースの名前に突き当たる。彼は、イタリア生まれの名うての映画製作者で、F.フェリーニ監督作品『道』を手掛けて、国際的にも有名となり、アメリカ映画界にも進出する。本作との関連で言うと、R. ヴァディム監督、J.フォンダ主演のSFファンタジー映画『バーバレラ』(仏・伊合作、1968年作)の存在が目に付くし、本作から四年後の製作であるが、同じくSF映画『デューン/砂の惑星』(D.リンチ監督作)も、本作を真面目に撮った内容のものと見做せないことはない。

 このD.Deラウレンティースと並んで、もう一人のイタリア人が重要な役割で本作の制作に関わっている。Danilo Donatiダニロ・ドナーティーである。彼は、F.ゼフィレルリ監督作『ロミオとジュリエット』(1968年作、O.ハッセー主演)で、衣裳を担当し、それにより、USAアカデミー衣裳賞を授賞しているが、本作でも、衣裳とプロダクション・ディザインを担当している。長年F.フェリーニ監督やP. P. パゾリーニ監督の衣裳担当を務めた彼であるが、本作の衣裳ディザインでは、何か中国風のイメージが「匂っている」のが、興味深い。この点に関しては確証がないのであるが、Ming皇帝は、漢字にすれば、「明皇帝」となり、正に、漢民族の中国史においての最後の大帝国明王朝を、本作ではもじっているように筆者には思われる。更に邪推すれば、Mongo帝国の「Mongo」にl字を一字書き加えれば、「Mongol」となり、つまりは、例のモンゴル帝国につながる。モンゴル民族は騎馬民族として、中近東は言わずもがな、13世紀には、西はポーランドまで攻め込んで、ポーランド騎士軍を打ち破り、東は、元寇として日本にまで攻め入っているのである。それ程の大帝国を打ち立てたMongol帝国になぞって、インター・ギャラクティック・エンパイヤとしてのMongo帝国を仮想したのではないかと想像の翼が羽ばたく。

 本作の原作は、1930年代USAの新聞日曜版連載のコミック・ストリップで、当時は大きな人気を博したのであったが、その人気を受けて、36年には、連続冒険活劇として映画化され、全13編が制作され、二年後には、続編が、各30分で、全15編が撮られている。スペース・ファンタジーSF映画の第一人者J.ルーカスはこのシリーズの大ファンであって、これを映画化したがっていたのであったが、前述のD.Deラウレンティースがその映画化権を持っていたことから、『Flash Gordon』の映画化がならず、それで、自分で『スター・ウォーズ』を創ったというのは、本作にまつわる有名なエピソードである。

 元々の映像素材には、35㎜と70㎜(サウンド:6トラック)とがあり、映画ポスターにも宣伝されている通り、「テクニカラー」である。正に、Danilo Donatiの衣裳と美術は、イアリア人の色彩感覚そのものであり、「テクニカラー」の色彩美がそれに似合っている。2020年には4Kでデジタル・リマスター版が出ており、是非、このデジタル・リマスター版で、イギリスのハードロック・バンドQueenの音楽を楽しみながら、本作を鑑賞したいものである。

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