元必殺仕留め人 meets タクシードライバー
本作の監督はアントワーン・フークアAntoine Fuquaという人間で、アフリカ系アメリカ人映画監督である。彼は、本作の成功もあったのか、結局、『The Equalizer』シリーズ三作すべてを撮ることになる。
A.フークア監督は、D.ワッシングトンとは既に2001年作の刑事ものの『トレーニング デイ』で共作しており、D.ワッシングトンは、この作品で初めての悪役を演じて、USアカデミー主演男優賞を獲得した。そういう経緯もあったのか、D.ワッシングトンが共同製作者でもある本作では、A.フークア監督は、D.ワッシングトンをフューチャーするアクションものを撮っている。元々ミュージック・ヴィデオ制作畑から来ているところからなのか、スタイリッシュな映画作りが得意なようで、本作でもその感覚が強い。ストーリー展開の背景となっている都市も、ニューヨークやロスアンゼルスではなく、アメリカ東海岸、ニューイングランド地方の「首都」で、大学町であるBostonであることも中々「憎い」。
撮影監督は、イタリア系アメリカン人キャメラマン、マウロ・フィオーレMauro Fioreである。彼は、A.フークアとは2001年作の『トレーニング デイ』でも共作しており、J.キャメロン監督の『Avatar』(2009年作)でUSアカデミー撮影賞を授賞している撮影監督である。本作ラストシーンの明るいボストンの街並みをきれいに撮っているシーンと好対照をなして、殺人が行なわれるシーンは、色調を少々暗めに押え、メタリックなものにしている。この画面のタッチに、有能なイギリス人作曲家ハリー・グレッグソン=ウィリアムズHarry Gregson-Williamsの、D.ワッシングトンが意を決して登場する場面で流れる、バスを効かせた「テーマ・ミュージック」が加わると、A.フークア監督が醸しだすスタイリッシュ性は更に高まると言える。
本作は、あるテレビ映画シリーズが元ネタになっており、その原作ストーリーがどれほどのものかは見当が付かないが、本作の脚本自体は、筆者の目では、よく練られており、映画序盤の、D.ワッシングトンと少女娼婦TeriことAlinaとの交流は、『タクシードライバー』のストーリーを思わせる。このAlinaがロシアン・マフィアに搾取され、むごい暴力を振るわれたことから、D.ワッシングトンは、最初は意図したものではなかったのであるが、期せずして、ロシアン・マフィアとの暴力的抗争にはまり込んでいく。
D.ワッシングトンは、「昔取った杵柄」なのであろうか、一度殺ると決めたら、私的制裁としての殺人にも躊躇はしない。自分が手を掛けて断末魔にある人間の眼を覗き込む仕草は、悪魔的でさえある。一方、普段勤めているホームマートでは、同僚とも気さくに対応し、自分の素性を探られると、ユーモアであしらうが、同僚が困っていれば、彼等を助ける心を忘れないタイプなのである。その人間性と、殺人の際の「悪魔性」のギャップに整合性が付かないのではあるが、この点が観る者を更に本作を観させる魅力ともなっており、この不整合性のせいなのか、D.ワッシングトンは、眠れなくて、毎晩近くのダイナーに出掛けては、本を読むのである。少女娼婦Alinaもここの常連であり、D.ワッシングトンが丁度読んでいるヘミングウェイの『老人と海』が二人の間柄を近づける切っ掛けでもあった。亡くなった妻を想い、自分のそれまでの人生を悔いて、今は、ひっそりと夜な夜な本を読みふける生活を送っているD.ワッシングトンではあったが、彼は、実は、日本語版で元CIA要員とされているのとは異なり、元DIA特殊工作員であった。DIAとは、Defense Intelligence Agencyの略で、日本語訳では「国防情報局」である。ここは、USAに16あるインテリジェンス機関の一つで、アメリカ国防省傘下にある四つのインテリジェンス機関の内、陸・海・空軍の各軍の情報機関から上がってくる軍事情報を整理・統括する部署として設置されたものである。
このD.ワッシングトンに対抗するのが、ロシアン・マフィアに雇われている「問題解決屋」ニコライ・イチェンコである。こちらも、元はロシア軍の「スペルツナズ・特殊要員」である。その冷血さではD.ワッシングトンに引けを取るものではなく、ここに両者の「悪魔性」が対峙される。この意味で、本作中盤でのロシア料理レストランにおける二人の対話こそ、そこにアクション性はないものの、正にスリルに満ちた両者の対決であり、圧巻である。これがあって、本作終盤の、全く日常的なホームマートでの両者の「決闘」が生きてくる。本作の脚本を書いたのが、リチャード・ウェンクRichard Wenkであり、彼が、結局、『The Equalizer』シリーズ三作の脚本すべてを引き受けたのも納得できる。
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