46分の長さの中編アニメ『言の葉の庭』(2013年作)で「大人のアニメ」への展開を予想させた新海アニメ・ワールドは、次の三年後の長編アニメ『君の名は。』で方向を変える。神道主義者になった新海は、それ以降の『天気の子』(2019年作)と、2022年作の『すずめの戸締り』に繋がる、一つの制作定式を見つけた出したのである。
つまり、本作『君の名は。』には、ストーリー展開において四つの特徴がある。
1.日本的民俗の要素、ここでは神社をストーリーに取り入れる。
2.ストーリーを基本的にファンタジーとする。
3.主人公を中学生・高校生とする。
4.女子生徒には、特殊な能力を持たせる。
高校二年生の「三葉(みつは)」は、岐阜県飛騨地方にある神社の巫女である。祖母が一葉、母が二葉、妹が四葉と、世代が繋がっており、父親は、民俗学者である。『言の葉の庭』で万葉集をテーマとした新海は、日本古代を改めて「発見」したのである。それゆえに、「お神酒」でもある「口噛み酒」が本作でも重要な役割の演ずる。「口噛み酒」は、処女が噛んだ酒米でなければならないのである。
主人公の三葉は、自ら望んだ訳ではないが、東京にいる、同じく高校二年生の立花瀧と体を「入れ替える」ことが出来るのである。物語りの展開に従って、それが、実は、空間だけではなく、時間軸においても「ずれ」が生じていたことが分かるのであるが、この時空間での「ズレ」というテーマは、新海は、2002年に彼が殆んど自作自演で制作したSF短編アニメ『ほしのこえ』で扱っていたものである。
一方、もう一人の主人公・立花瀧は、女子の身体に入れ替えることが出来て、「興奮」する。実は、本作の題名は、企画書の段階では、『夢と知りせば―男女とりかえばや物語』であったと言う。つまりは、日本文学を大学で勉学した新海は、ストーリーを日本の古典から採ってきて、男児を「姫君」として、そして女児を「若君」として育てる、平安時代の『とりかへばや物語』を想定し、これにさらに、「絶世の美女」たる小野小町の和歌「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを」(古今和歌集)を設定に取り込んだのであると言う。蓋し、妙案である。こうして、新海ファンタジー・ワールドは成立したのである。
しかも、立花瀧がアルバイトをしているイタリア・レストランは「IL GIARDINO DELLE PAROLE」という。イタリア語を訳して、「言葉の庭」、つまりは、新海はここで前作の『言の葉の庭』と本作を繋げているのである。三葉が通う高校の古典の教員が「ユキちゃん先生」であるのも、新海の、『言の葉の庭』から採った「冗談」である。
さらに、前作との関りから言うと、ラスト・シーンは、2007年の自身作『秒速5センチメートル』からの「パクリ」である。2022月4月に瀧と三葉は東京で偶然に再会するのであるが、それは、桜が満開の雨上がりの朝であった。
さて、最後に、本作の題名を書く時には、句点を忘れてはならない。忘れてしまっては、それは、1950年代のラジオ・連続メロドラマ、そして、同名の、岸恵子主演の映画作品(1953年作)の題名と同じになってしまうからである。
因みに、個人的には余り好みではないファンタジー・アニメの本作が成功した一つの要因は、アニメーター・安藤雅司が本作に作画監督として関わったことである。彼は、宮崎駿監督の『もののけ姫』と『千と千尋の神隠し』で、また、今敏監督の『パプリカ』で作画監督を務めた名アニメーターである。ここに敢えて彼の名前を記し、宮崎と新海のアニメ制作上の繋がりを強調しておきたい。
2023年7月2日日曜日
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