2024年7月3日水曜日

眼下の敵(USA、1957年作)監督:デック・パウエル

 ナチスドイツのUボート艦長von Stolbergフォン・シュトルベルクの名前の一部になっている「von」から、この艦長の出身階層が貴族であることには間違いがないであろう。海軍将校であることから、恐らくはドイツ北部の黒海沿岸やバルト海沿岸、或いはその近くの内陸部の出身であろうと推察できる。そして、自らが、士官学校時代からの戦友である第一当直士官Schwafferシュヴァファー海軍中尉に(名前は「Heinieハイニー」で、von Stolberg艦長はSchwafferのことを名前で呼んでいる)、自分は軍人の家の出身であり、自分の息子達二人も軍人に育て上げたが、一人は飛行機乗りとして戦死し、一人は、同じく潜水艦乗りとして、海の藻屑となって海の底に沈んでいるという身の上話しをしているところから推察すると、von Stolbergは、場合によっては、ドイツ東部にあるElbeエルベ河以東の下層の土地貴族層Junkerユンカー層出身かもしれない。Otto von Bismarckを代表とする彼らこそ、プロイセン王国軍隊の屋台骨を将校連として支えた社会階層であるからである。

 von Stolbergは、Heinieハイニーに誇らしげに言う:『俺は、息子達に教えたものだ。「闘う、義務を遂行する、そして、質問はしない。」と。』自らもそのように叩き込まれたプロイセン軍人精神を、自らの息子達にも叩き込んだ訳であるが、それは、前近代的な「騎士道精神」にもつながることになり、このことが、彼がUボートを浮上させて、魚雷に被弾した駆逐艦にUボートの艦砲砲撃で沈没させようした、戦場における「栄誉礼」の動機であった。このことは、von Stolbergの「驕り」ではなかったのであり、アメリカ人のMurrell艦長がそれをvon Stolbergの「失敗」と評価している点で、独米間の価値観の違いもまた見られて、本作のストーリーにより深みを与えている。

 何れにしても、本作は、第二次世界大戦中の潜水艦と駆逐艦との戦いを描いた古典的作品であるが、それは単なる戦争アクションものに終わっておらず、最後には戦時におけるヒューマニズムを詠う佳作となっている点で一見の価値ある作品となっている。

 Uボート艦長von Stolbergを演じるのが、当時のドイツ映画界を代表する男優Curd Jürgensクルト・ユルゲンスであり、これに対するUSA海軍護衛駆逐艦艦長Murrell艦長を演じるのが、R.ミッチャムで、両男優の演技も本作の見どころであろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

泣け!日本国民 最後の戦斗機(日本、1956年作)監督:野口 博志

 まず画像に、「この一篇を雲の彼方に散った若人のために捧ぐ」と流れる。  すると、早速、当時の実写の場面が写し出され、恐らくマリアナ沖海戦か、沖縄戦における神風特攻作戦の場面が一部特撮を混ぜて見せられる。(特撮:日活特殊技術部;やはり、戦前からの東宝・特撮部、円谷英二班のものには...