学校のあの「道徳」の時間に語られるエピソード、人徳のある人や高潔な人の伝記を聞かされたり、読まされたりした時の、あの「気まずさ」がこの映画にはある。或いは、こう言ったらよいであろうか。あることを悟った人間に、未だ悟ってはいないこちらに、悟ったらこうなのであると伝道された時の、こちらとあちらの「隔たり」感である。逆に、「ああそうですか。それで?」と言いたくなる「反抗心」がむらむらと湧いてくる。そんな感覚である。
確かに、Brianブライアンが辿った、犯罪の泥沼から抜け出した、その道は正しい。逆に、ブライアンの竹馬の友Paulie(「ポール」と読むようである)が突き進んだ悪の道はその好対照をなす。それでも、観ている者としてそこに何か突き放された感覚が、筆者には残るのである。
主人公と名前が同じ監督Brian Goodman(苗字がまた人徳を示す「good man」)は、脚本も共同で書いており、また、本作の一役(主人公二人を手下としてこき使う小悪党Pat Kelly役)で出ているという、思入れようで、ウィキペディアによると、実は、本作は、彼が「悔いて」俳優になる前の、彼の半生をほぼ実話的に描いたものであると言う。故に、ストーリーの舞台も、監督自身が生まれ育ったボストン市南部の地域で、カトリック教徒が多いところであると言う。これが、ニューヨークであったら、同じ反社組織でももっと「イタリア臭」がして、恐らく、Brianも犯罪の泥沼から逃れられなかったかもしれない。
さて、本作の日本上映に当たって製作されたポスターの、謳い文句の「嘘さ加減」はかなりひどいと言わなければならない。まず、「全てを賭けて、のし上がる男たちの挽歌!」である。主人公二人は死なないことから、本作は、「挽歌」ではない。また、組織の中で「のし上がる」つもりのない二人は、ただのチンピラの雑魚である。次に、「アウトローアクション大作」とは、ただの暴力場面の誇大宣伝である。そして、「壮絶なクライマックス」とはお世辞でも言えない現金輸送車襲撃の顛末である。大体、邦題の『CrossingDay』とは、原題『What Doesn't Kill You』のどこをどうやって捻ると出てくるのか、甚だ疑問である。
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