映画の冒頭、調整中のある飛行機が登場する。この時は、どの単葉機か分からないのではあるが、ラスト・シーンでは、その飛行機が、P-51であることが分かる。軽快な、スリムな機体と、それと思われる、腹に抱えた吸気口が特徴的なこの戦闘機は、ノース・アメリカン社が開発し、USA陸軍航空軍で使用された単座戦闘機である。当時としては高速で、しかも戦闘機として比較的長い航続距離があったことから、爆撃隊の護衛戦闘機として、第二次世界大戦末期にはドイツ第三帝国の上空を制圧した。この戦闘機は、また、帝国日本の上空にも現れ、対地攻撃で、地上を射撃して回ったものである。愛称は、Mustangマスタングで、これは、スペイン人によって北アメリカ大陸に持ち込まれ、野生化した小型の馬の名称であると言う。こうして、ウィキペディアによると、この機は、第二次世界大戦中・後期の「最優秀戦闘機」であったと言われる。
すると、映画ではシーンが変わって、今度は、一挙に80年程時代が飛んで、極超音速ジェット機となるテスト機「ダークスター」が登場する。これは、マッハ5以上のハイパー・ソニック・スピード(Hypersonic Speed)で飛行するテスト機で、これで以って、マッハ10以上を越えようと言うのである。とすれば、これは、恐らく、いわゆる「第六世代」のジェット機の試作機であるということになろうか。2020年代初頭、ジェット機は、もう、「第六世代」の時代なのである。
何を以って「第六世代」とするのか、2020年代に入っても未だはっきりした定義はないようであるが、その要件の一つとしては、第五世代を上回るステルス性能と超音速巡航能力であると言う。であれば、「ダークスター」は、この超音速巡航能力を試作するための機体であると言える。
現在実用化されている第五世代ジェット機の要件は、ステルス性能が最も核心的なものであろう。という訳で、USA軍と対抗する敵方のジェット戦闘機は、本作では、単に「第五世代戦闘機」と呼称されて登場するが、ウィキペディアによると、それは、どうもロシア製ジェット戦闘機Su-57型機であるようである。この世代に属するUSAジェット戦闘機としては、例えば、F-35がある。
この第五世代ジェット戦闘機に追跡されたF-14機は、何とか危機を切り抜けるが、何と、このF-14機を我等が英雄T.クルーズは、敵方から奪ったのである。どうして、F-14機が敵の手にあったのか、都合がよすぎるのではあるが......
このF-14型は、USA軍のジェット戦闘機としては、第四世代ジェット戦闘機に属する型で、しかも、本作の主役的ジェット機であるF/A-18よりも前の型で、この二つの型の間には、F-15や、その汎用性において名ジェット戦闘機と言われたF-16が存在しており、この第四世代ジェット戦闘機の初期型とも言えるF-14型機が、その世代一つ後のSu-57型機からその追跡を逃れられる可能性は極めて低いのではか。そのストーリー展開に「眉唾もの」が多い本作には、仕方がないことであろうが、それでも、やはり、危機を救うために突如やって来なければならない「騎兵隊」の出番作りは、これで以って、完璧である。
それでは、何故に本作ではF-14型やF/A-18型が主役を演ずるのか。どうして、次世代型のF-35型ではないのか。それは、「Top Gun II」としての本作の前作との関わりがあるからである。故に、作戦内容をわざとF-35型では相応しくないものとして、老体に鞭打ったT.クルーズが四機編隊のリーダー役を務められるようにした訳である。
ジェット戦闘機の世代は、第一世代が1940年代の後半から始まり、音速に達しない速度で朝鮮戦争をお互いに戦った世代(F-86対MiG-15)から始まる。音速に達して、第二世代となり、超音速の速さにミサイル弾を装備した第三世代で、ジェット戦闘機の時代は1960年代に入るが、USA軍は、この世代で格闘戦性能を軽視したことで、ヴェトナムの上空でソ連製戦闘機との戦いで苦戦する。その戦訓から、およそ1980年代から運用が始められた第四世代では、大推進力で機敏な運動飛行が可能であり、格闘戦性能、いわゆる「ドグファイト」性が重視されたのである。つまり、ここで格闘戦を戦える、パイロットの技量と闘志が求められた訳で、ここがまた、本作におけるメッセージ「考えるな!(本能に従え!)」に通じる理由でもあった。そして、これは、正に、『Top Gun I』(Tony Scott監督、1986年作)へのオマージュでもあり、この前作での主役戦闘機も、F-14であったのである。この時、この機を駆って、若きT.クルーズは、架空のMiG-28と戦ったのである。
第六世代ジェット戦闘機では、恐らく最早、人間の「闘志」の出る幕はなくなり、AIに制御された、場合によっては無人機の飛行団が制空権を圧することになるであろう。この意味で、本作のラストシーンでの、P-51マスタングが、ゆらりゆらりと飛行する場面は、ご愛敬でもあろうが、同時にジェット戦闘機時代で人間の要素が未だにある役割を演じられたじだいへのノスタルギー・哀惜でさえあるのである。
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トップ・ガン マーヴェリック(USA、2022年作)監督:ジョセフ・コシンスキー
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