本作の主人公Tyler Rakeが元所属していた組織SASR(「特殊空挺連隊」)は、実は、日本と、間接的ではあるが、関係がある組織である。
体ががっちりし、胸板の厚い主人公Tyler Rakeは、今は傭兵として秘密裏にどこかの組織に雇われる存在であるが、元はSASR隊員であった。SASRとは、略語であり、正確に記述すると、「Special Air Service Regiment」であり、訳せば、「特殊空挺連隊」のことである。このSAS部隊は、英国にも、また、英国の嘗ての植民地の一つであったオーストラリアにも存在する部隊であり、T.レークは、オーストラリアのSASRの部隊員であった。SASRは、オーストラリア陸軍に所属する特殊部隊で、英国のSASを模範として、1957年に成立した。
しかし、この部隊の前身は、太平洋戦争中に構成された部隊にある。太平洋戦争が大日本帝国軍のパールハーバー奇襲で始まった1941年の翌年、日本軍がニューギニアに迫ってくると、オーストラリア大陸の北岸が日本軍に脅かされることとなり、それに対抗するために、オーストラリア陸軍は、偵察を主な任務とする独立騎馬部隊を創設する。そして、日本帝国軍とやむを得ず戦闘状態に入る場合には、陸軍の正規軍が英軍と共に欧州、中東に配備されていたことから、独立の「特攻中隊」、或いは、「Z特殊部隊Special Force」が投入されることになっていた。現在のSASRは、これらの、大日本帝国軍を敵として、太平洋戦争中に成立した部隊の伝統を背景として、創設されたのである。
SASRは、1957年に創設されて以降、60年代には、インドネシア・ボルネオ紛争、ベトナム戦争に、2000年代には、イラク戦争、さらに、2002年から2010年まではアフガニスタン戦争に投入される。
因みに、アフガニスタン戦争投入中に、オーストラリア軍、とりわけ、SASRの部隊員による戦争犯罪が行なわれたことが、2017年にオーストラリアの放送局Australian Broadcasting Corporationよって明るみ出され、少なくとも39人のアフガニスタン人市民がオーストラリア兵によって射殺されたり、捕虜となったアフガニスタン人ゲリラが即決で処刑されたりしたと言う。とりわけ、SASRの部隊の場合には、テロ対策でパトロール中の新兵に、入隊の儀式として、新兵にアフガニスタン人の「処刑」を強要していたと言うのである。
2022年には、オーストラリアの調査委員会が、19名の元兵隊に刑事訴訟を起こすことを提言しており、それを受けて、あるオーストラリアの将軍が、オーストラリア軍の名の下に、アフガニスタン国民に謝罪をするというところまでに事態が発展したが、その背景には、ある出来事が事態に火を注ぐ形となった。と言うのは、オーストラリア情報局が警察と共同して、2017年にこの件を報道したAustralian Broadcasting Corporationを、2019年に手入れして、事件の情報とその情報源を探り出そうした、報道の自由を脅かすスキャンダルが起こっていたからである。
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