2023年4月5日水曜日

秋立ちぬ(日本、1960年作)監督:成瀬 巳喜男

 1951年作の『めし』で、成瀬は、自らの監督としての特長の「方程式」、すなわち、女性を主人公にした現代劇を、原作は女性作家のものとし、その脚本を女性脚本家に書かせて撮るというやり方を確立した。その「女性映画監督」としての成瀬は、60年代に入ると、松山善三脚本による、大人の女をテーマとした作品を撮りだす。『娘・妻・母』(60年作、脚本:松山、井出俊郎)、『妻として女として』(61年作 脚本:松山、井出)、『女の座』(62年作 脚本:松山、井出)などである。

 そんな中、60年に撮られた『秋立ちぬ』は、子供の視点から撮られた成瀬作品として異色である。成瀬自身がプロデュースしている作品としても、彼の思い入れの程が推察できよう。原案は、東宝の専属脚本家笠原良三のオリジナルシナリオ『都会の子』により、成瀬自身がこれを翻案したと言う。

 信州の田舎から東京に出てきた小学六年生秀男が主人公である。母親は、夫に死なれ、生活に困って、秀男を連れて、東京で新しい生活を営もうと、東京にいる自分の親戚を頼って、出てきたのである。母親は、自分は旅館の仕事を見つけて、旅館に住み込みで働くようになり、息子を親戚の許に置いたままにする。こうして、母親が働く旅館の娘、小学校四年生の順子と秀男は仲良くなる。母親に捨てられる秀男の孤独と、また、母親役の乙羽信子が、母親の責任を捨てて、男にすがらざるを得ない女の「弱さ」が、観ている者の胸を詰まらせる。

0 件のコメント:

コメントを投稿

泣け!日本国民 最後の戦斗機(日本、1956年作)監督:野口 博志

 まず画像に、「この一篇を雲の彼方に散った若人のために捧ぐ」と流れる。  すると、早速、当時の実写の場面が写し出され、恐らくマリアナ沖海戦か、沖縄戦における神風特攻作戦の場面が一部特撮を混ぜて見せられる。(特撮:日活特殊技術部;やはり、戦前からの東宝・特撮部、円谷英二班のものには...