2023年4月12日水曜日

インディアン狩り(USA、1968年作)監督:シドニー・ポラック

 北アメリカ大陸の先住民ネイティブ・アメリカンの一部族であるKiowaカイオワ族は、18世紀に、恐らく、ヨーロッパから入植してきた白人たちに押しやられて西進せざるを得なかったスー族によって、南部大平原へさらに追いやられた。彼らは、言わば騎馬民族として、コマンチ族と同盟し、現在で言うテキサス州全土で略奪を行う。19世紀半ば以降になると、アメリカ・白人政府に、テキサスの「領土」を明け渡し、現在のオクラホマの保留地へ移住するよう強制される。これに対し、彼らは、再びコマンチ族と組んで一大抵抗戦を組織し、これにより、白人の入植地などは戦火で包まれることになる。こうして、彼らには賞金が掛けられ、その賞金を目当てに、白人の賞金稼ぎが彼らを追跡する。これらの、「インディアン」の賞金首を「ハンティング」する白人の賞金稼ぎを、本作の英語原題となる「Scalphunter」という。

 この賞金稼ぎの一味の一つが、Jim Howieハウイー(俳優テリー・サヴァラスが悪役を好演)を首領とする一団である。彼らは、酔っ払ったインディアンの一行を見つけ、彼らをあっさり撃ち殺してしまう。インディアン達が丁度毛皮も一山持っていたことから、一味はこれもチャッカリ頂いてしまうのであるが、それが、彼らの「運の尽き」であった。実は、この毛皮の一山の、元々の所持者は、Joe BassというTrapperトラッパーで、先程の、ハウイー一味に殺されたインディアン達に強要されて、毛皮と、それから彼が携行していた荷物を「物々交換」させられていたのである。

 さて、この「物々交換」の、インディアン側の交換物とは、何と黒人奴隷であった。この黒人は、コマンチ族から「黒い羽根」と呼ばれていたが、口から先に生まれてきたと言えるほど、口達者な奴隷で、本名をJoseph Leeといい、どういう訳か、学があり、中世のヨーロッパ知識人よろしく、ラテン語の箴言を引用し、Joe Bassとは異なり、読み書きも出来るという、文化人「奴隷」なのである。その一方で、彼は、野生で生きる術を何も知らず、腕力に訴えて敵対者に勝つ根性もない人間であった。

 この「文化人」の黒人奴隷Josephと、野生で生きる「野蛮人」の白人Joeの掛け合い、そして、この両者の、奴隷と主人の関係が次第に対等の関係へと発展していくストーリー展開が、本作の「旨味」であり、本作がウェスタン・コメディーの良作の一本であると言われる所以である。しかも、黒人と白人の立場が、文化人と野蛮人と逆転しているところに、本作の「コメディー性」があるのであり、人種差別の重い問題を、こうしたコメディーとして扱っているところに、本作の、とりわけ脚本(アメリカ人脚本家William W. Nortonの初期の脚本)の「強み」があるのである。

 黒人奴隷Josephを演じるOssie Davisも、白人の野蛮人を演じるBurt Lancasterも、1960年代前半からの公民権運動にひとかたならぬアンガジュマンを示してきた俳優であった。B.ランカスターが、本作の製作者の一人となっていることからも、彼の本作に対する思い入れの深さが感じられる。

 ところで、このランカスターとは私生活で一時深い仲であったのが、本作のヒロインShelley Wintersウィンタースで、本作では彼女は、その喉のいいところも示して、一曲歌っている。その彼女は、本作では、悪党ハウイーの、少々下品な愛人Kateを演じているのであるが、彼女を含む何人かの女性が馬車に乗り込んで、一味と同行をしている。こうした役柄で、S.Winters もこの映画のストーリーに絡むことになる。映画の終盤で、映画の初めの方でハウイー一味に殺されたカイオワ・インディアン達の仇を取る形で、その酋長「黒色のカラス」に率いられたカイオワ・インディアンの別動隊にハウイー一味が皆殺しに遇うことになる。この時、S.Winters達、白人女性達は生き残り、彼女達は、インディアン達に連れ去られる運命となる。

 その「運命」を悟ったのか、S.Wintersは一席演説をぶつ:„Indian Man, I don't know how many wifes you have now, but you're going to have yourself the damnedest white squaw in the entire Kiowa Nation!“(the damnedest white squawとは、今風に言えば、「とんでも白人スコー女」とでも訳せようか、squawとは、今では差別用語として使用が憚られるインディアン語で「女」を意味し、とりわけ、白人の妻となったインディアン女性を言うとのことである。)

 S.Wintersと言えば、1950年作で、アンソニー・マン監督の正統派西部劇『ウィンチェスター銃'73』で、J.ステュワートと共演でヒロインを演じた女優である。ここでは、開拓者の若い妻役を演じたS.Wintersは、表題のウィンチェスター銃を持って、危険とあれば、相手を射殺する女丈夫であり、仮にインディアンに生け捕りにされそうものなら、恐らくは、捕まる前に、自らを撃って自殺していただろう役柄である。その彼女が、18年後であるが、同じ西部劇ジャンルである本作では、インディアンの「妻」になることを、潔しくとはしないものの、それを受け入れるのである。『ウィンチェスター銃'73』が正統派ウェスタンの「走り」であるとすれば、本作の『インディアン狩り』を以って、西部劇ジャンルが変わっていく転換点がはっきりとマーキングされた言えるであろう。あの、アーサー・ペン監督の『小さな巨人』が上映されるのは、本作の二年後である。

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