2026年7月13日月曜日

地底探険(USA、1959年作)監督:ヘンリー・レヴィン

 本作の原作は、SF冒険小説の生みの親の一人であるフランス人のジュール・ヴェルヌJules Verneの小説『地底旅行』(1864年作)である。この邦訳の『地底旅行』を原題にすると、『Voyage au centre de la terre』であり、意訳すると、『テラのセンターへのヴォアヤージュ』ということになろうか。本作に合わせて言うと、つまり、「地球の中心への旅」(『Journey to the Center of the Earth』)である。とは言え、どんどん地球の核に降りていく訳ではなく、アイスランドの死火山から地球の中に入った探検隊一行は、結局最後には、シチリア島の近くにある活火山Stromboliストロンボリから噴き出されて、地表に戻ってくることになるので、つまりは、地の底を旅して地中海まで辿り着いたことになり、この意味で、邦訳の『地底旅行』は適訳と言えよう。

 原作では、主人公は、ドイツのハンブルクに住む鉱物学者・地学者である、年齢は50代後半のOtto Lidenbrockオットー・リーデンブロックである。彼が丁度手に入れたルーン文字で手書きされた古書の中に、リーデンブロック教授は、16世紀のアイスランドの錬金術師Arne Saknussemm アルネ・サクヌセムの秘密のメッセージが隠されていると確信し、それを、甥っ子でもあり、また、彼の信頼の置ける助手でもあるAlexアーレックス(19歳)と共に解読する。こうして、二人は、コペンハーゲン経由でアイスランドのレイキャビックに渡航し、そこで現地の案内人としてHansハンスを雇って、上述の地底旅行を1863年の夏から始める。原作の語りは、一人称型式で、物語りは、Alexを語り手として語られる。

 原作が、初期のSF作品と言われる所以は、様々な科学的な叙述が比較的長く作中で綴られているからであるが、これを映画化するに当たっては、男三人の地底旅行をAlexのモノローグで淡々と辿る訳には行かない。という訳で、脚本家のWalter Reisch(ヴァルター・ライシュ;オーストリア系のUSA脚本家で、兼作詞家、兼映画監督)とCharles Brackettチャールズ・ブラケットが、脚本作りの経験を生かして、脚本化に取り掛かる。とりわけ、言わば「ビリー・ワイルダー組」の脚本家と言えるニューヨーカー・Ch.ブラケットは、B.ワイルダーのために十本以上の脚本を書いており、1950年作の『サンセット大通り』では、USアカデミー賞脚本賞を受賞している存在である。しかも、彼は、製作も担当しており、映画製作のツボも押えている人物である。

 まずは、時代を1863年から1880年に移し、主人公Otto Lidenbrockは、スコットランドはエジンバラ大学の教授Oliver Lindenbrookオリヴァー・リンデンブルックとする。その甥っ子であるはずのAlexは、リンデンブルック教授の下で地学を学ぶスコットランド人学生Alecアレックとなる。錬金術師Arne Saknussemmは、同じくアイスランド人の著名な地学者とし、新たに、その子孫であるサクヌッセム伯爵が本作の悪玉として登場して、彼が、リンデンブルック探検隊の邪魔をするのである。しかも、この悪玉が、リンデンブルック教授が協力を求めたストックホルム大学のゲータボルク教授を殺すという犯罪映画の要素もストーリーに加わる。SF冒険譚に犯罪事件が加われば、もちろん、色恋沙汰が出てこなければ「嘘」になる。という訳で、リンデンブルック教授には年頃の姪っ子のジェニーがいることになり、彼女とアレックは熱々の恋仲の関係である。このアレック役を、しかもコミカルに演じるのが、USA歌手のPat Booneパット・ブーンで、彼は、ジェニーに恋の歌をピアノの弾き語りで捧げるという趣向などを含めて、劇中所々で、その喉の魅力を披露することになる。更に、男三人のむさ苦しい地底旅行には、ゲータボルク教授未亡人Carlaカルラ(赤毛のブロンド女優Arlene Dahlアーレン・ダール)が、女丈夫よろしく、同行するのであった。こうして、探検隊隊長であるリンデンブルック教授(名優ジェームズ・メイスン)と、赤毛のカルラとの絡み合いも「色」の一つを添えることになるのである。

 1960年開催のUSアカデミー賞は、『ベン・ハー』が12部門でノミネートされ、11部門で受賞した、言わば、『ベン・ハー』の年であるが、この際、本作も三部門でノミネートされた。カラー映画部門美術・セット装飾賞(五名)、音響賞(Carlton W. Faulkner;1954年にシネマスコープ技術の開発に絡んでUSアカデミー賞技術賞を共同受賞している) 、そして、特殊効果賞の三部門である。とりわけ、特殊効果賞でノミネートされたのは、二作だけであり、もう一作の『ベン・ハー』がこの賞を受賞している。本作での特殊効果の担当は、L.B. Abbott(撮影監督並びに特殊効果ディザイナーとして活動し、1968年には『ドリトル先生の不思議な旅』、1971年に『トラ、トラ、トラ!』でUSアカデミー賞視覚効果賞を受賞している)、James B. Gordon(1951年開催のUSアカデミー賞で科学・技術賞を受賞している)、そして、Emil Kosa Jr.の三名である。但し、Emil Kosa Jr.は、USアカデミー賞でのノミネートでは挙げられておらず、代わりに、特撮における音響録音に関係したと思われるCarlton W. Faulknerの名前が再度挙げられている。

 特殊効果ということであると、本作の前年に発表された冒険ファンタジー映画『The 7th Voyage of Sinbad シンバット七回目の航海』がある。CGが導入される前の、特殊効果の王道は、特撮の名匠と言われたRay Harryhausenレイ・ハリーハウゼンが開発した特殊効果撮影システム(ダイナメ―ション方式)で、ストップモーション撮影と写真合成技術をカラー撮影用に組み合わせたものである。この「特殊撮影の神様」が、『The 7th Voyage of Sinbad シンバット七回目の航海』で、画面の中で怪物や怪獣を動かしたり、人間と骸骨とを剣を持って戦わせたりしたのである。

 本作では、ストップモーション撮影は使われていないようであるが、いわゆる「トカゲ撮影」での写真合成技術は使われた。古代巨大生物を撮影するために、本物のトカゲやワニに作り物の鰭や角を付けさせてそれらしく見せるトリック撮影である。動物愛護の観点から今では考えられないトリック撮影技法である。

 尚、言語としては、本作はUSA映画でもあり、英語がこの映画では基本であるが、アイスランドでガイド役になるハンスには、本当のアイスランド人Pétur Rögnvaldssonがなっている。彼は、熱烈な陸上競技選手で、アイスランドの陸上競技代表チームには、十種競技の選手として参加しているほどである。彼は、USAの大学から奨学金を得たことからUSAに渡って、Peter Ronsonと名乗ることになるが、渡ってまもなく、本作に、その193㎝の身長の高さを買われて、Hans役で登場する。一方、Carla役のArlene Dahlは、USA生まれの女優ではあるが、彼女の両親は、ノールウェー出身の移民であることから、恐らくは、ノールウェー語が出来たのであろう。本作中では、アイスランド語しか話さないハンスと、スコットランド人であるリンデンブルック教授との間のスェーデン人通訳として、その仲介の役割を演じる。デンマーク語も含めたスカンディナヴィア諸語がそれぞれどれだけ異なるのか、筆者には測りかねるが、ハンスとCarlaとの間のスカンディナヴィア語のやりとりは聞いていて興味深い。

 本作は、CinemaScope作品として撮られている。CinemaScopeは、二十世紀フォックス社が開発したワイドスクリーン技術で、上述のCarlton W. Faulknerなどがその開発に携わっったものである。1953年制作の聖書物語『聖衣』(ヘンリー・コスタ監督、リチャード・バートン主演)が、初のCinemaScope作品となる。

 また、未だ白黒作品が撮られていた1950年代末で、本作はカラー映画作品として映画のカラー化の方向を一歩進めた作品として、DeLuxe Colorによるカラー化が行なわれている。筆者の個人的な印象であるが、Technicolorが彩度の高い総天然色であるのに対し、Eastmancolorは、油絵のような濃度の濃い色合いを特徴としており、特に、黄色の再現力に強い。DeLuxe Colorは、このEastmancolorを基に、特に初上映向けに使われるプリントに施された現像技術であった。しかも、Technicolorでは三色撮りであるのに対して、DeLuxe Colorは、「single strip color」と言われるように、一本の撮影で済むことから、安上りでもあった訳である。

 本作の中で、色彩関連で、とりわけ印象的なシーンを幾つか挙げれば、一つ目は、映画の序盤での、アレックの恋人ジェニーが着ているドレスである。シルクの光沢が感じられる薄い桜色のドレスは、それを纏った若いジェニーによく似合っている。日本で言えば、振り袖姿の二十歳のお嬢さんという感じである。二つ目は、夫によりアイスランドのレイキャビックに呼び寄せられたゲータボルク教授夫人Carlaが着ているドレスである。赤毛の髪を見せながら、赤色の補色である緑色の帽子を被り、それにコーディネートさせた、ビロードの素材を感じさせる若干くすんだ色の緑色のドレスである。そして、ドレスと言うことであれば、映画の終盤に、エディンバラに戻ってきた探検隊一行を讃える観衆の前で演説するリンデンブルック教授の隣に立つCarlaの着ているドレスである。明るい光沢を放つ薄い紫色の、華やかなドレスで、それにコーディネートされるように同じ色の日傘を差したCarlaの姿は、本作の大団円に相応しい一幅の絵であろう。

 そして、本作の極めつけは、探検隊が地底に着いて、初めて狂喜する、様々な奇石に散りばめられた、地下水が流れ込む洞穴の場面である。ここでは、特殊撮影は必要がなく、ただ美術監督の裁量の下、セット装飾が存分に腕を揮ったところである。正に、カラー映画作品でなければ、楽しめない場面であり、USアカデミー賞の美術部門で本作がノミネートされたのも然りという仕事振りである。改めて、担当したJeseph KishとWalter M. Scottに敬意を表するものである。

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