1965年から始まった本シリーズ『昭和残侠伝』が、高倉健主演の何本かのシリーズものの中で、最も魅力を感じさせる、その理由は俳優・池辺良の存在であろう。伝統的に仁義を守る善玉一家と、仁義を守らない新興悪玉一家の対立をストーリーの背景にして、これに高倉を慕う紅一点(第一、第二作の三田佳子、第三、第四、第五、第七作の藤純子、第六作の小山明子、第八作の松原智恵子、第九作の星由里子)を絡ませ、恋には晩熟の、さすらいの渡世人・高倉が、堪えに堪えて、最後に悪玉親分を切り倒す、これが『昭和残侠伝』のストーリーの基本構造である。しかし、この最後の、懲悪の「道行き」には渋い相方が付くことが、このシリーズの「味噌」であり、斬り合いの中で死んでいく悲劇の相方を体現したのが、俳優・池辺なのである。
1918年生まれの池辺は、このシリーズ制作当時は、40歳代後半で、嘗ての二枚目青春スターの過去を背負って、どこか翳りのある、知的で苦み走った男性像を表象している。しかも、側頭と後頭部を刈り上げ、頭の上部だけ長めにするという、当時としては印象的な髪形で、それに、とりわけ黒の着物を、(本当は「いなせに」と言いたいところだが、これは気の早い若い人に言う言葉であると言うから)「粋に」着こなす池辺は、正に和製のダンディズムの権化と言えるであろう。こんな池辺に死地への道行きの相方を務めてもらっては、さすがの健さんも男冥利に尽きたことは想像に余りある。
2025年2月26日水曜日
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