原作が『平凡』という青少年向けの雑誌の連載小説であるところからも推察できる通り、その内容が当時の日活の若者路線に上手く、はまったのであろう。本作は、日活の若手俳優、長門裕之と津川雅彦の、現実にも兄弟である二人を主人公にして、平安時代中・後期の若侍の仇討ちの物語りにストーリーは出来上がっている。当然ながら、浅丘ルリ子(長門の許婚役)、香月美奈子(猟師の娘あけみ役)、稲垣美穂子(藤原一族の息女役)などの若手女優陣との色恋沙汰も入るのであるが、とは言え、本作が取り扱う時代背景が面白い。つまり、平清盛が平氏政権を樹立する1160年以前では、地方の武士階層が、映画にも登場する藤原頼通(平安期摂関政治の代表的人物たる藤原道長の息子の一人で、没年:1074年)の時代に京都で任官するとすれば、精々、検非違使として牢獄の番人にしかなれない時代のことである。その後ほぼ百年でその状況が変貌する訳であるが、この意味でも、「侍」の元々の語源である「さぶらう」が、「貴族たる主人に仕える」意味であったことがよく思い出されるべき歴史的背景が本作、そしてその原作にあったのである。
映画の冒頭には、ストーリーの場所として、「若狭の國、小浜の庄」と出てくる。即ち、現在の福井県の一部で、若狭湾に面した地域であり、その国府は小浜付近にあったと言う。この小浜の、ある「庄」の管理者が長門・津川兄弟の一族であった。更に付け加えて言えば、武士階層の成立の一つの経路が、土地所有農民の一部が次第に武力行使に専業化していった経過であったのであり、蓋し、長門・津川兄弟の一族はこのような武士階層の身分形成の途中経過を表しているように思われる。
さて、本作は、「日活初の総天然色大型映画」であると言われ、「日活スコープ」というワイドスクリーンで初めて撮られており、「総天然色」作品としては、日活イーストマンカラーによって日活第二作目である。日活スコープ第一作目と言うことで、日活がこの作品に掛ける意気込みをこれでよく知られよう。タイトルロールでも、「ワイド技術」、「色彩計測」の担当者名が挙げられている。また、ワイドスクリーンのための撮影に、しっかりと京の街などのセット作りがなされていることも本作を目で楽しむ一つのファクターであろう。(美術:西亥一郎)
映画冒頭の長門、浅丘、津川の登場する、物語り上、若狭湾の海岸沿いであるはずの場面で、津川が長門と許嫁の浅丘を冷やかそうとして、突然、岩陰の後ろか岩に駆け上がり、二人に摘んだ花を投げつける。その時に津川が来ていた着物の色が薄い黄色で実に風景の中に映えている。
また、浅丘は、人買いにさらわれて、結局は、白拍子となり、権力者藤原頼通の前で舞いを舞うことになるが、その時に浅丘が来ていた桃色の着物と彼女が手に持つ扇の、鮮やかな赤色は、さすがは、イーストマンカラーの彩色である。
2025年2月27日木曜日
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