本作は、原作演劇『三文オペラ』の、B.ブレヒトの風刺性とK.ヴァイルの音楽的アヴァンギャルド性を削ぎ取った単純なミュージカル作品である。しかも、主題のテーマは、プエルトリコ人ラウル・ジュリアが演じるMac the Knifeと、同じくラテン系アメリカ人の血が入ったジュリア・ミゲネス演じる娼婦Jennyとの間の「腐れ縁」の愛である。このサイトの映画ポスターでは分からないが、ウィキペディアに出ているポスターでは、二人が熱烈にキスする直前のシーンが採用されており、的を射えている。
尚、本作の終盤フィナーレでの展開は、『三文オペラ』もその通りであり、何も本作の脚本の独創ではない。そもそも、悲劇のバロック・オペラが終章にデウス・エクス・マキナが出て、一挙に問題が解決するというハッピーエンドは、伝統的なオペラの悲劇のエンディングである。
原作演劇『三文オペラ』の初上演は、1928年のことであるが、この演劇の原作は、ジョン・ゲイの『乞食のオペラ』であり、こちらは、1728年が初上演である。つまり、『三文オペラ』と『乞食のオペラ』の間には丁度200年の差がある訳であるが、『三文オペラ』では、ある女王の戴冠式が、本作の映画と同様に一つのプロットとなっており、それが、ヴィクトリア女王の戴冠式であるとすると、1837年のことになる。となると、正に、『乞食のオペラ』と『三文オペラ』のほぼ中間地点となる。こう考えると、ブレヒトは、実に上手い、作品の時間的設定を行なったと言えるであろう。
原作演劇『三文オペラ』では、メッキ―・メッサ―、即ち匕首のメッキ―と、「乞食王」ピーチャムの箱娘ポリーの関係が中心であるのであるが、本作では、マックとジェニーの関係に焦点が置かれており、また、本作では、ジェニーとはJenny Diverと、『三文オペラ』とは異なり、しっかり述べられているので、このJenny Diverとは誰のことかを少々説明しておこうと思う。
Jenny Diverは、本名をMary Youngといい、1700年頃にアイルランドで生まれた。両親に捨てられた後、施設で育ち、裁縫師の技術を身に付けるものの、ロンドンに移り住み、そこで、女スリの窃盗団に仲間入りすることになる。結局、そのリーダー格になり、綽名でJenny Diverと呼ばれる。彼女は18世紀前半で最も悪名高い存在となるが、彼女は中・上流の市民と交わり、教養もあり、身なりもよく、魅力的な存在であったと言う。
1733年と38年に二度、司法に捕まるものの素性が同定出来なかったことから、一時アメリカ大陸にあるヴァージニアに送られたりもしたが、イギリスに戻ってきて、再び自由の身となる。1741年1月に三度目に捕まり、この時には、素性が分かったことから、結局、アメリカへの強制送還を逃れた重罪の故に死刑の処罰を受ける。同年3月18日、他の死刑判決を受けた人間と共に、死刑に処される。その際、彼女は黒いドレスを纏っていたと言う。
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