本作は、スペイン映画で、同名のUSA映画『グレイハウンド』(2020年作、トム・ハンクス主演)とは全く別物であるので、ご注意下さい。
そもそもの始まりは、2001年9月11日の「同時多発テロ事件」を受けて、当時のUSA大統領ジョージ・W・ブッシュが対国際テロリズムとの戦いを「War戦争」と、解釈のマウント取りをしたことであったが、本来、「戦争」とは、国と国との闘争であり、ある国とテロリスト集団との戦いではない。故に、十分な証拠が仮にあっても、アフガニスタン国にテロリストの引き渡しを要求し、これに従わないからと言って、他国に侵攻すること自体が国際法違反なのである。しかも、テロリズムは犯罪行為なのであって、警察行為で取り締まるべき問題であることもここで言い添えておこう。
そして、この国際法違反の行為の結果、タリバン政権が政治権力を放棄して、地下に潜り、それを、レジーム・チェンジとして、USAの庇護の下、暫定政権を擁立したこと自体もまた、国際法上、問題がある。2026年に生きている我々は、ヴェネゼイラやイランでのケースで、そのことを知っている。(ある国の内戦の勢力の一つに加担して、ある外国の軍隊がその国に侵攻することは、誰の目にも国際法違反と理解できる。)
しかし、民主主義と人権を擁護するという、もう一つの大義名分の名の下に、既成事実としてUSA軍によって擁立された、アフガニスタンの暫定政権は、国際連合から「支援」を受けることになる。ここでも、国際政治の、国際法遵守と人権擁護のディレンマがぶつかり合うことになる。
こうして、国連は、2001年12月20日の安保理決議1386号により、国際治安支援部隊International Security Assistance Force(略称:ISAFアイサフ)をアフガニスタンに派遣することになる。この部隊は、国連憲章第一章に基づく、国連平和維持軍(所謂、「ブルー・ヘルメット」)ではなく、国連憲章第七章の発動の下で行なわれる軍事的強制措置(憲章第43条)としての、有志国による多国籍軍であった。
国連からの「お墨付き」を得たISAFではあるが、アフガニスタン「正統」政府が成立し、この「正統」政府が、各国との軍事技術協定を再調印したとしても、この政府と国連との協定が成立した訳でもなく、更に、ISAFの「多国籍軍」は、2003年8月以降は、事実上、「NATO」軍に置き換えられ、ISAFの統合最高司令本部もオランダに置かれる。
遅くとも2009年までにはNATOを構成する全28ヵ国が、派遣する兵隊の数の違いはあれ、ISAFに兵員を提供しており、それだけではなく、NATOに加盟していない欧州諸国(当時のスェーデンなど)、そして、欧州以外、例えば、アジア州やオセアニア州の国々(韓国、シンガポール、オーストラリアなど)も参加して、2012年には50ヵ国、合計約13万人のISAF要員がアフガニスタンに派遣された。(アフガニスタン政府の治安維持能力が十分に養成されたということで、ISAFの任務は2014年末に終了する。)
本作で登場するスペイン軍は、NATO軍の一部としてのものと理解されるが、スペイン軍自体は、既に2002年初頭にASPFOR (Afghanistan SPanish FORce)として約480名規模で、アフガニスタンの首都カブールに入っていた。それ以来、兵員数は、2012年段階では約1.500名(USAは、約9万名)に増えており、2005年以降は、イタリア軍の傘下に、アフガニスタン西部の、トルクメニスタンに国境を接する州Badghisバードギースの州都Qala-i-Nawカラエナウにも駐屯していた。(アフガニスタン東部は、USA軍の、アフガニスタン北部は、ドイツ軍の、そして、アフガニスタン南部は、オランダ軍の上級指揮下にあった。)
本作は、2012年に起こった実話を基にして脚本が書かれているようであり、基本的には、上述の枠組みでISAFに参加したスペイン軍兵士、とりわけ、戦死したり、任務中事故死したりしたスペイン軍兵士へのオマージュと考えてよい作品である。故に、ストーリーを盛り上げるための事実の「改竄」は倫理上、最小限に留められていると見てよく、戦闘場面での銃の撃ち合いよりも、戦闘任務中に直面した困難を如何に乗り越えるかの、一人一人の兵士、将校の決断こそがここに描かれることが、脚本の本筋であると思っていよい。そして、女性蔑視のタリバン政権に対する、ヨーロッパの価値観を体現するためにも、このアフガニスタン西部で任務に就いたスペイン軍女性兵士・女性将校の活躍も特にプロットとして描かれることになる。
尚、筆者はミリタリーマニアではないので、本作に登場した軍用ヘリコプターが何であるか分からなかったが、他の方のコメントを見て、それが、救護ヘリに特化されたフランス製ヘリコプター「AS 332B、通称:Super Pumaスュペール・ピュマ」、USA製タンデムローター式大型ヘリコプター「CH-47 Chinookチヌーク」、そして、仏・独・西により共同開発された攻撃型ヘリコプター「EC665、愛称:Tigre/Tiger」であることが分かり、調べてみた。「EC665、愛称:Tigre/Tiger」は、開発国はもちろん、オーストラリア軍もこの機種を導入している。
「Tigerティーガー」と読むと、これは、ドイツ語の愛称となり、「Tigre」がフランス語とスペイン語の愛称である。フランス語読みでは「ティグル」と、スペイン語読みでは、「ティグレ」となるそうである。本作撮影で登場した本機種は、スペイン軍が保有している、数少ない同型機のもので、恐らくは、スペイン軍の特別の許可を受けて撮影したものであろう。
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