Hollywoodを巡る風刺作品と言えば、古い所では、ドイツ人名監督Billy Wilderの1950年作の『サンセット大通り』が挙げられよう。この作品の主人公で、サイレント映画時代の嘗ての大女優ノーマ・デズモンドは、ウィキペディアによると、「世間から忘れられたという事実を受け入れられず、およそ実現不可能だと思われるカムバックを夢見るスター気取りの中年女優」であるという性格設定であり、これは、正に、本作でJ.Mooreが演じるところの嘗ては一応有名であった、マザコンの女優に当てはまるものである。それゆえ、『サンセット大通り』より約65年後に撮られた本作がこの点で目新しいものを付け加えたとは言えない。それでも、J.Mooreは、2014年度のカンヌ映画祭において本作でのハヴァナ・セグランド役で女優賞を得ている。ヨーロッパではHollywood批判は受けるのである。
Hollywoodを巡る風刺として、さらに、本作では、名子役と言われて傲慢になっている、しかし、その名声が、年齢が重なるに従い、脅かされているBenjie Weiss(俳優Evan Birdが好演)と彼の家族の「悲劇」が描かれている。しかし、Benjieとその姉Agathaとの間の心理的な相互依存関係は、監督D.Cronenbergが1988年に撮っていた、双子の兄弟の心理的依存関係を描いた『戦慄の絆 Dead Ringers』のヴァリエーションではないか、という訳で、筆者は、かなりの不満感を持って、本作を観終った。(Hollywoodの、金を巡っての汚い組織としての暗黒面を完膚なきまでに描いたのは、D.Lynch監督の2001年の作品、『マルホランド・ドライブ』 であろう。)
監督D.Cronenbergは、カナダのトロントで、1943年に生まれている。1961年、即ち、今から60年前に(!)、彼は、トロント大学で一年だけ生化学・生物学を専攻する。この経歴から、彼の、いわゆる「Body Horror」性癖もまた肯ける。しかし、翌年には英文学に学籍を変えて、作家になろうとするが、自己の才能の限界を感じ、それを断念する。映画の世界には、友人との交友から偶然に接することとなり、60年代半ばあたりから16㎜の短編映画を撮り始める。60年代末には実験映画を撮りだし、70年にCrimes of The Future を撮る。2021年現在、この作品のリメイクを制作中であるという。
1980年代に入り、トレーラーで観るかぎり、かなりカルト的なホラー映画を撮りだす。81年に『スキャナーズ Scanners』を、83年に『ヴィデオドローム Videodrome』を発表する。同年には、今まで自分で脚本を書いていたものが、初めて他人の原作を映画化するようになる。すなわち、『デッドゾーン The Dead Zone』で、この作品の原作はSt. Kingのものであり、主演は、名優Chr.Walkenである。86年には、同名の作品をリメイクした『ザ・フライ The Fly』を、その二年後には、上述の『戦慄の絆 Dead Ringers』を撮っている。この作品において、Cronenbergは、その後の彼の制作上の方向性、すなわち、心理過程の描写にストーリーの重点を置き換えていく方向を示す。
自分が愛読する作家ウィリアム・S.バロウズの作品『裸のランチ』を1991年に映画化した同名の作品では、D.Cronenbergは、ベルリン国際映画祭での金熊賞(最優秀作品賞)を取り逃がしたが、1999年に撮った『イグジステンズeXistenZ 』で、同映画祭の銀熊賞(審査委員会賞)を受賞する。『イグジステンズ』で、D.Cronenbergは、『裸のランチ』で見せた現実と意識界との交錯を、現実、意識界、ヴァーチャル・リアリティと何重にも交錯させ、これに彼の得意のSFがかった、Body=Bio=Horrorを組み合わせて、私見、最もCoronenbergらしい作品を撮っている。
2000年以降のCronenbergの作品を筆者は余り観ていなので、断定はできないが、『イグジステンズ』で集大成したCronenberg世界は一応完結し、これ以降、より正統的な映画作りに方向性を転換したものと思われる。2007年の作品『イースタン・プロミス Eastern Promises』 は、ラシアン・マフィアの世界を描いているし、14年作の本作も、Hollywoodの風刺とは言え、ストーリーはむしろ正統的であると言える。Hollywoodのセレブの世界、それが虚構・虚飾であろうと何であろうと、セレブとは関係のない筆者、彼らの悲劇は、対岸の火事を見る如く、全くの他人事であり、それゆえに、筆者は本作を、感情の移入なしで、冷たく見放して観ていたのである。
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