2022年7月20日水曜日

大地震(USA、1974年作) 監督:マーク・ロブスン

 天変地異映画は、昔は、人間がただ右往左往するのが詰まらなく、本作は、筆者は公開当時は観ていない。当時は"Sensurround センサラウンド"という地震を低周波の音波で擬似体験できる音響効果が目玉だったそうで、この年度のアカデミー音響賞本作が受賞するにった程であるという。今回は映画館では観なかったので、この擬似体験をするチャンスがなかったが、仮にあったとして、筆者がそのために、わざわざ映画館まで足を伸ばしたかは疑問である。では、今回なぜ観たか。やはり、ここ20年以上以来の、人為による地球温暖化が齎す気候変動と、それに伴なって頻繁に起こる天災が現実味を持って、しかも身近に感じられるからであろう。(実際、ハイチの住民は、20218月、地震とハリケーン並みの嵐の二重の天災に悩まされた。)

 さて、本作における、CGを使わない特撮は、観ていて円谷並みに質が高いと思った。ロサンジェルスにある高層建築物が倒壊する場面、廃墟と化した都市のシーン、さらにはダム決壊により大洪水が何もかも押し流していくミニチュアの作りも、恐らく70㎜の大画面で見れば、それなりの迫力があったものと想像できる。

 そして、1970年代と言えば、パニック映画が「蔓延った」時期である。そんなパニック映画の代表作の一つが本作である。主演は、もちろん、アメリカン・タフガイを体現するCh.ヘストンである。映画の冒頭から体力作りに余念がない建築家である。その妻を演じるのが、往年の美貌を感じさせるA.ガードナーであるが、両者の関係はうまく行っておらず、彼女はヘストンの愛を感じたくて色々と突っかかる。そのヘストンの心の「隙」に入り込むのが、夫に先立たれた子持ちの若い未亡人Geneviève Bujold G.ビュジョルドゥ(ビュジョ?)である。彼女は、年齢の差があるヘストンと肉体関係を結ぶ。その同じ日に、大地震が起こる。ストーリーは、上述の三人以外にも関係する人間たちがオールスターのように登場し、この大地震と、その結果としてのダム決壊の大災害の中で、それぞれの運命を生きる姿を人間模様のように描く。果たして誰が生き残るのか。

 ところで、本音を言うと、随分、本作についてのレヴューを書こうか、書くまいか、迷った。なぜなら、本作はレヴューを書くほどの作品ではないからである。が、やはり、書こうと思ったのは、女優Geneviève Bujoldが気になったからである。美形の細面と言うより、三角形の顔で、額が大きく、きりっとした眉に賢そうな目をしている。鼻は短めで、鼻の先は丸まっている。その下には、少々肉感的な上唇が付いている。そんな顔立ちである。

 彼女について調べてみると、名前から予想した通り、フランス系であるが、ケベック州モントリオールで1942年に生まれたカナダ人である。修道院付属の学校に通い、そこで正統のフランス語を習得、卒業後は演劇学校で演技を習い、61年に演劇、TV、ラジオ部門で活動を始め、ドキュメンタリー部門で日常の中の「真実」をありのままに撮ろうというCinéma véritéで名をなす監督René Bonnièreが撮った、カナダ製作の中編劇映画1963年に映画界へのデビューを飾る。

 翌年、Bujoldと同じくモントリオール出身のキャメラマン、Michel BraultCinéma vérité或いはカナダ、アメリカ合衆国におけるDirect Cinema運動を推し進めて、感度の高いフイルムを使い、携帯のカメラ・録音機材を持って、外界のシーンに入り込んでいくことを狙ったキャメラマン)が、30分の短編『Geneviève』にBujoldを使って撮る。この意味でも、Bujoldは、カナダ映画制作界の独自の発展のミューズだったとも言える。

 65年、ある劇団に所属してロシア・フランスを巡業中、Alain Resnais監督に見込まれ、1966年『戦争は終った』(イヴ・モンタン主演)で本格的長編映画でのデビューを果たす。翌年、Louis Malle作品『パリの大泥棒』での、ベルモンドの従妹役で、フランスの名高い新人女優賞シュザンヌ・ビアンケッティ賞を受賞する。(日本語版ウィキペディアでは、『戦争は終わった』で本賞を取っているとされているが、間違いのようである。)

 Bujoldは、フランスでの成功を後にして、どういう訳かカナダに戻る。そして、モントリオール出身の脚本家兼監督兼プロデューサーで、彼女より11歳年上のPaul Almond67年結婚する。Almondは、Bujoldを主役に68年から72年までの間に3本の作品をものにするが、その内の68年の作品『Isabel』が、ハリウッドのプロデューサーの目に止まり、それが切っ掛けでBujoldのハリウッド進出の一本目となる。それが、『1000日のアン』(69年作、R.バートンとの共演)であり、Bujoldは、エリザベス一世を産むことになるAnne Boleynアン・ブリンを演じ、この役でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞する。

 73年にAlmondとは別れることになるが、彼とは一児(男子)を儲けており、離婚か死別かの違いはあるにせよ、本作『大地震』の撮影には、役柄同様の、男手なしの一児の母親として役に臨むことになる。

 今回Bujoldのフィルモグラフィーを見て、とりわけ推奨したい二作品がある。66年作で、Philippe de Brocaフィリプ・ドゥ・ブロカ監督が撮った『まぼろしの市街戦』(原題:『ハートのキング』)と、88年作で、カナダ人のDavid Paul Cronenbergが撮った『戦慄の絆』である。

 『まぼろしの市街戦』では、Alan Bates演じるイギリス兵が第一次世界大戦末期の18年北フランスの、とある町にドイツ軍が仕掛けた時限爆弾を外しに単身向かい、そこで精神病院に収監されている人々と交流するというストーリーで、Batesは、Bujold演じるところの可憐な女性Coquelicotコクリコ(ヒナゲシ)に恋すると言う作品である。戦争の狂気を寓話的、風刺的に描いた佳作である。(ヒナゲシは、カナダの詩人で、従軍したジョン・マクレーの詩『フランダースの野に』に因むと言い、イギリス連邦の国々では戦没者の象徴とされていると言う。)

 もう一本の『戦慄の絆』は、ジェレミー・アイアンズが、スター産婦人科医の一卵性双生児二人を一人二役で演じ、微妙な共生で成り立っていた二人の兄弟が、Bujold演じる女優の登場により、その均衡関係が崩されて、自滅していくと言うサイコ・スリラーである。Bujoldは、この役によりロサンジェルス映画批評家協会賞で最優秀助演女優賞を獲得している。この作品は、クローネンバーグの典型的な、いわゆる、生物学的な「ボディー・ホラー」の面があるが、ここではむしろサイコ面での、じわりとしたストーリー展開となっており、個人的に好みである。

 Bujoldは、1990年代以降はTV、映画部門でその活動の中心をカナダに置いており、カナダの、映画賞、テレビ賞をいくつか取りながら、2021年現在も活躍を続けているようである。

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