オマージュされて、された方が困ることもある
アメリカ合衆国でのスポーツ競技で人気があるものと言えば、ベースボールかアメリカンフットボールであろう。私見、そのダイナミズム、スピード、そして戦術の多様性という点で、アメリカンフットボールはベースボールに勝る。
では、その「アメフト」であるが、一チーム11人の選手の中で、攻撃側の「司令塔」となるのが、クォーター・バック(QB)である。オフェンシブ・ラインに五人並ぶ中央、センターから、スナップされて、あのアーモンド形のボールをもらったQBが、ボールを振り分け、ランプレーかパスプレーにゲームを動かす。ランプレーであれば、よく、QBの後ろにいるラニング・バック(RB)がQBからハンドオフされたボールを持って、デフェンシブ・ラインに「突撃」する。パスプレーであれば、両サイドにいるワイド・レシーバー(WR)が、チェスで言う、駒の「ルーク」、将棋で言うと、「香車」のように、敵陣に走り込み、QBからロングパスを受けようとする。
多方、守備側のチームは、デフェンシブ・フロント・ラインを作る。3人から4人の、いわば相撲の力士が並び、相手側のラインを突破して、QBに殺到する。このラインの後ろに、ライン・バッカー(LB)がおり、4人ないし3人が並ぶ。LBが3人いる場合は、その真ん中のLBをミドル・ライン・バッカー(MLB)といい、これが、守備側の「QB」だと言われる。つまり、MLBが守備側の「司令塔」である。
本作のストーリーを上述のアメフトのゲームに譬えれば、ロサンゼルス郡保安局(Los Angeles County Sheriff's Department、略称:LASD)の下っ端刑事Nick „Big Nick“ O’Brienが守備側の「司令塔」MLBであり、強盗団のボス、Ray Merrimenが、攻撃側の司令塔QBである。しかも、メリメンは、元アメリカ海兵隊特殊作戦コマンド (United States Marine Corps Forces Special Operations Command : U.S.MARSOC)のエリート兵士であった。さらに、そのクルーの、LeviとBoscoも元 U.S.MARSOCであり、いわば、攻撃側のチームの、センターとRBの役を受け持って、メリメンと共に攻撃隊形のTの字の縦棒を形作っている。
こうやって、両チームが渉り合う。ファースト・ダウンは、現金輸送車襲撃、セカンド・ダウンが、陽動作戦、そして、サード・ダウンで、「タッチダウン」の本命、連邦準備銀行が落とせるか、この「攻撃」にビッグ・ニックはどう出るか。その際、スコットランド人俳優ジェラード・バトラーが演ずるところの、男性ホルモン・テストステロンむんむんのビッグ・ニック役が、後のどんでん返しにも効いてくる。しかも、そのニックとレイの「雄鶏の闘い」の最中に「黒猫」が漁夫の利を得、それがまたどんでん返しの痛快さを高める。ここでは、単に、Black lives matterとでも言っておこう。
さて、本作の終盤の、路上での銃撃戦を観て、観た人はそうであろうが、マイケル・マン監督の『ヒート』(1995年作)を思い出し、両作のストーリーをもう一度なぞってみると、やはりそこに共通項があり、本作の脚本も書いているクリスチャン・グーデカスト監督の、これは「探偵」物語『ヒート』に対するオマージュであることが推察できる。
しかし、如何せん、主役G.バトラーには、Al.パチーノが演じたLAPD強盗担当部警部補役の「人間性」を十分に出す時間が与えられておらず、ましてや、R.デ・ニーロが体現した、ジェントルマン・知能犯マコーリー役は、敵役レイのエリート兵士役とは比較できない。さすがは、171分の長丁場が誇れる探偵物語『ヒート』のメッセージ、つまり、犯罪者を追う刑事・警部は犯罪者同様の犯罪に対する「本能」を持っていなければ、犯罪者を追い詰めることは出来ないという知見は、映画史に残るものであろう。
という訳で、オマージュされて、オマージュされた方が困惑するということが成り立つものであるが、本作、最後のどんでん返しの「スマートさ」にご容赦を願うということで、機会があれば、その時はご覧あれ。
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