「コーエン兄弟ワールド」、本作では未だ全開せず
そのアイルランド系ギャングスターのボスが、 Liam „Leo“ O’Bannonで、この役を、その苦み走ったところが中々よく似合う、イギリス人俳優Albert Finneyが演じている。その一方の、O’Bannonの右腕Tom Reaganは、自分のボスと、富と愛欲の、はざまを泳ぎきるユダヤ系アメリカ人女性を巡り対立するのであるが、その本能的生存知と幸運で、結局はボスとの仲たがいを乗り越える。その意味で本作は、典型的なフィルム・ノワールなのである。この主人公T.Reaganの役を、国籍的にも役にぴったりのアイルランド人俳優Gabriel Byrneが演じており、キャスティングにおいて、本作は、誠に的を射得ている。
そして、本作には、O’BannonとTom Reaganの二人の間に、いわば、ギャングスター・ロマンティックとしての、男同士の友情の絆が存在しているという「落ち」が付くのである。この意味で、本作は、1990年代と言う、ギャングスター映画に事欠かない時期に、若きコーエン兄弟がギャングスター映画で映画制作にチャレンジした、USAギャングスター映画史上の記念すべき作品であると言える。
しかし、クレジットには記されてはいないが、ダシール・ハメットのハードボイルド小説である『ガラスの鍵』が参考にされていると言われている脚本には、やはり、「コーエン兄弟ワールド」の、ユダヤ系Humorフモールが醸し出すところの、「グロ」をもう一捻りしたところに出てくる「滑稽さ」が一つ欠けているという意味で、本作では、未だ「コーエン兄弟ワールド」が全開していないことは否めないであろう。
「コーエン兄弟ワールド」とは、私見、映画のメッカ、ハリウッドをネタにして、おフランスのカンヌで三賞総ざらいの大ブレイクした『Barton Fink』(1991年作)を皮切りに、さらに、映画史からのポスト・モダーン的引用集『The Hudsucker Proxy』(1994年作)と日常性と犯罪性の乖離から生まれる滑稽さを描く『Fargo』(1996年作)を経て、これらの集大成としての傑作『The Big Lebowski』(1998年作)において、結実するのである。
本作で、憐れむべき、ホモのチンピラ「Bernie Bernbaum」(Bernbaumという、いかにもユダヤ的姓名)を演じるJohn Turturro は、『Barton Fink』で主演を演じ、『The Big Lebowski』では、いかにも悪の権現と言える、紫色の「イエス」を体現するのである。
John Turturroと並んで、本作で突出して好演しているのは、殺人を意に返さずに、だが、「倫理」は説くと言う、イタリア系マフィア・ボスJohnny Casparを体現したJon Polito であろう。彼もまた、役に合うイタリア人系俳優で、本作以外、他にも4作のコーエン兄弟作品に登場しているが、本作での役が、その中では一番大きい役である。筆者としては、この年度のオスカー助演男優賞受賞に相当する好演ぶりである。
最後に、美術監督として言及しておきたいのが、Leslie Macdonaldで、本作で実に手堅い仕事をしている。こちらも、私見、この年度のオスカー美術監督賞に値する仕事で、そのギャングスター・ロマンティックの映像世界に説得のあるセッティングを構築している。彼は、上述の『Barton Fink』並びに『The Hudsucker Proxy』でも美術監督を担当している。
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