なぜ「ドーム」と呼ぶのかと言うと、この地域は、南極高原の円頂丘(すなわち、「ドーム」)の一つの頂点であるからである。そして、その標高が3.810mと富士山の高さと近いところから「ドームF」、「ドームふじ」と名付けられた訳である。南極で、しかもこの標高であるから、月平均気温が、一年間で、昭和基地で0度からマイナス20度の間を動くのに対して、ドームふじ基地では、マイナス35度前後からマイナス70度まで下がるのである(年間平均気温マイナス54度)。南半球であるから、北半球とは寒暖の時期が逆転し、12月から1月が最も気温が高い時期になり、最も寒くなるのは、昭和基地では8月であるのに対して、5月であると言う。
時代設定は、日本本土では平成不況が始まって数年経った1997年で、基地開設から二年後のことである。登場人物は、第38次南極地域観測隊の越冬隊の8人の「猛者」である。主人公は、この越冬隊の調理人となる西村淳であるが、彼が、一年以上の月日の間、自分を含めた8人の胃袋を、冷凍食品と缶詰でどう満たすかの奮闘記が、本作のテーマとなる。原作は、西村本人であり、彼が実地体験したものに基づいて、ストーリーは描かれる。つまり、本作は、極限状況での料理・クッキングものである。
主役西村を演じる俳優堺雅人が中々いい。それは、堺が醸しだす雰囲気が、本作の基調にある、状況から生まれる「滑稽さ」と上手くマッチするからである。この滑稽さを、原作が出しているのかは、原作を読んでいない筆者には分からないが、少なくともそれは監督の力量から来ていることは、監督の別作品から推して、自信を持って、言える。
その監督の名を、沖田修一と言う。1977年に愛知県で生まれた沖田は、2002年から短編映画を撮り始め、2006年に初めての長編『このすばらしきせかい』を撮る。その3年後、本作で商業映画部門でデビューし、本作でその年に最も優れた新人映画監督に贈られる新藤兼人賞金賞を受賞した。作品を撮るペースは、長編映画部門で言えば、2、3年置きであり、2021年までの15年間に9本を撮っている。恐らく、必ず脚本を自ら書きながらの監督業なので、寡作と思われるが、筆者が観た内で、『横道世之介』(2013年作)と『滝を見にいく』(2014年作)、とりわけ後者がお勧めである。
(『滝を見にいく』については、筆者の批評も読まれたい。)
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