2022年8月4日木曜日

いとみち(日本、2020年作)監督:横浜聡子

 本作は、典型的なふるさと振興・観光映画である。振興対象は、青森県、とりわけ、津軽郡、つまり青森県の西半分と青森市である。しかし、面白いことに、エンドロールの「協力」というところで最初に出てくるのは、弘前市である。そして、弘前市のことは本作のストーリーでは、本作の主人公が通う高校でしか出てこないのである。その意味で、弘前市の「鷹揚さ」に感服する。一方、青森市は、青森県の県庁所在地で、本作のストーリーの主要な舞台の一つとなる「津軽メイド珈琲店」がある場所である。

 東北新幹線が、それまで盛岡までであったものが、延長され、津軽半島を抜けて、北海道の函館まで延びると、新幹線は、昔は青函連絡船の港であった青森市は通らずに、弘前経由で、更に線路は北に進む。それ以来、弘前市が成長し、青森市は停滞しているとも聞く。

 更に、青森県人でなければ知らないとは思うが、現在の青森県は、弘前藩(別名「津軽藩」)と盛岡藩(別名「南部藩」)が明治時代になって強引に合併させらた県であった。
 元々は、古代の「陸奥(むつ)国」とは、現在の青森県から太平洋岸を北から南に下って、福島県あたりまで降りた地域を指す。その後、「陸奥(りくおう)国」が、陸奥国の奥にあるということで、現在の青森県と岩手県の北の一部を併せた地域にでき、更に、16世紀末に南部家の代官として津軽地方の郡代補佐をしていた大浦氏が謀反を起こして「津軽家」を名乗り、これを以って「弘前藩」を成立させる。これにより、盛岡藩と弘前藩との仲は本来非常に悪いまま、異なる「文化圏」として江戸時代を過ごし、方言で言えば、「南部弁」を話す人は「津軽弁」を分かろうとはせず、その逆もまた然りだったのである。

 さて、本作のもう一つの舞台は、弘前市の北にある板柳町で、ここはりんご生産で有名な地域の一つである。弘前市から在来線としては五能線があり、「能」とは秋田県の能代から来ており、東能代駅 - 岩館駅 - 深浦駅 - 鯵ケ沢駅間は日本海沿いを、鯵ケ沢駅 - 木造駅 - 五所川原駅間は田園地帯を、五所川原駅(ここから五能線の「五」) - 板柳駅 - 川部駅間はりんご果樹園を走って、区間によって異なる沿線の風景が見られる路線であるという。映画でも列車の場面があり、車窓から見える山は、津軽富士と呼ばれる岩木山である。

 そして、太棹の津軽三味線がやはり津軽には似合う。主人公が、若くして亡くなった三味線弾きの母親を想い、長い間弾かないでいた三味線をもう一度手に取り直し、津軽三味線の名もなき名人である祖母と三味線の二重奏を奏でる場面には、やはり感動する。せめてこの場面だけでも観てほしいところである。

 監督・脚本は、青森市生まれの横浜聡子、主役は、津軽郡出身の駒井漣である。駒井は2000年生まれで、将来の成長が楽しみな女優である。  

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