映画製作にどこかのフィルム・コミッションが関わり、それに、そのどこかの地元の観光協会などが協力して、体のいい「ロード・ムーヴィ」である、なんて言う売り込みで提供される映画には気を付けたい。要は、その土地を回って歩くのは、結局は、その地方の観光スポットであり、ストーリーもそんな風に組み立てられた、事実上の「観光宣伝映画」になってしまうからである。
本作にも、天草フィルム・コミッションなどはクレジットされていないが、天草市が製作協力し、バックパッカーの「オレオレ詐欺師」が、行きずりに天草に寄って、ストーリーが展開するとなると、観光宣伝映画の「危険」は、高かったが、本作をそれでも見たのは、俳優藤原季節が出る映画のトレーラーを偶然に数本見て、興味が湧き、本作で主演を演じるということで、事実上の観光宣伝映画で、どんな演技をするか一度観たかったからであった。
観ての評価は、彼は、2020年の第42回ヨコハマ映画祭で、映画『佐々木、イン、マイマイン』と劇場版『his』(いわば、日本版『ブロークバック・マウンテン』か )で以って、だてには最優秀新人賞を取ってはいないと言う感想である。将来の彼の活躍を期待する。
さて、この藤原にたかられる老婆役を演じたのが、原知佐子で、顔に見覚えがあったので、調べてみると、どの作品でその印象が残ったのかはもはや思い出せないが、経歴では、彼女の夫は実相寺昭雄であった。実相寺と言えば、アンファン・テリブルなTV映画監督として、『ウルトラマン』にも関わった人間で、1970年制作の白黒映画『無常』(実存主義とエロスをテーマとした映像美の傑作)が思い出される。そして、原の経歴の最後には、本作が原の遺作になったという記述があった。(合掌)
最後に、もう一つ気になったのは、ストーリー中、天草市の過去を撮った8㎜映画を編集し、それを天草市民に見せるというプロットである。山本起也(たつや)監督が、京都芸術大学映画科の教授でもあれば、さもありなんという、ある種、理論的なアプローチである。
そのプロットの展開過程を見て、映像自体にはメディアとしてはまだ未来があるであろうが、映画館というものは、このコロナ禍がそのプロセスをさらに加速させた形で、「過去の遺物」となってしまっているという実感である。本作では、映画館は過去の撮影物を見せるノスタルギーの場であり、最早、映像媒介の未来を担うものではないということである。
映画館と同様に、天草市「銀天街」は、かつての華やかさを失い、寂しいシャッター通りに今なってしまっている。ストーリー中にも「地方創生」の問題が登場してくるが、観光に頼る、他力本願の「町おこし」では、先が見えている。東京一極集中の体制を打破するためには、地元の農業を基幹産業としたアウタルキーな地域主義的な経済構造の構築こそが必須であると、筆者は、本作を観ながら、改めて思った。
2022年8月21日日曜日
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