本作のフランス語の原題は、『Dans la tourmente』で、訳せば、「渦巻きの中に」であり、一旦取り込まれれば、どんどん中に引きずり込まれる、つまり、一度犯罪を犯せば事態が悪くなり、そこからは抜け出られなくなるという、典型的な犯罪もののストーリー展開を指している。
主人公フランクは、南フランスのマルセイユにある、ある工場に勤めている。この工場が、軍事用ヘリコプターを製作している会社であることは、後で分かり、このことが本作のストーリー展開に重要な役割を演じるのであるが、フランクの親友マックスは、三年前にこの工場から解雇され、家庭にも軋轢があり、しかも、金に困っている。
フランクが勤めている工場は、しかし、経営がうまく行っておらず、工場が閉鎖される直前で、経営陣側と労働者側は、対立関係にある。そんな中、さすがはフランスの労働者である、工場が閉鎖されるのであれば、工場を占拠し、経営陣側に工場を爆破すると脅しを掛ける相談が持ちあがる。フランクもその中の一員であり、工場占拠の下調べに、休憩中を装って、地下室を通って、経営陣がいる建物部分に侵入すると、偶然に、社長たちが、その夜に、工場にある機械や資材等を梱包して持ち去り、「夜逃げ」を計画していることを盗み聞く。しかも、その際、200万ユーロの金も持ち出そうという打合せがなされていた。これを聞いたフランクは、強盗の計画を立て、結局、親友のマックスと犯行を同日の夜に強行することになる。こうして、フランクとマックスは、犯罪の渦巻きに、あっという間に飲み込まれてしまう。
さて、本作の邦題名は、『デスパレート』である。「自暴自棄」、「破れかぶれ」という意味で、蓋し、脇役であるマックスの生き様に焦点を当てた題名の付け方である。実際、このマックスという危なっかしい人間が本作では印象的である。この役を体現しているのが、Yvan Attalイヴァン・アタルというアルジェリア系ユダヤ人である。彼は、イスラエルのテルアビブ出身であり、映画俳優のみならず、舞台俳優、脚本家、映画監督もやっている多彩な才能がある人物である。やはり、本作では、彼が、すっかり他の主演俳優たちのお株を奪った格好になっている。
人物背景も、ある程度、丁寧に描いているし、会社側と労働者側の実力での闘争もしっかりプロットの中に入れ込みながらも、結局は、単純な犯罪映画で終わるのかなと思いながら、映画を観ていると、本作は、終盤、意外にも、「政治スリラー」に話が展開する。ここにおいて、フランスの国内情報中央局が登場する。国内情報中央局(フランス語:Direction centrale du Renseignement intérieur、略称:DCRI)とは、国家警察総局付けの中央官庁の一つで、 フランス国内を管轄とする、テロリズムやサイバー犯罪などに対抗するための防諜・情報機関である。現在は、国内治安総局(フランス語:Direction générale de la Sécurité intérieure、略称:DGSI)となっている警察組織であるが、これが、ストーリー展開に絡んで、本作は終局を迎える。マックスとフランク、そして、フランクの妻エレーヌの運命は、どうなるか。
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